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アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Empyre

Empyre (Empyre (2020)) (English Edition)

謎の救助信号を受信し月面に降り立ったアベンジャーズ。しかしそこで見たのは豊かな緑に覆われた庭園と、温厚な植物種族コタチの救世主セコイアと、その父でありかつて人間のアベンジャーだったソーズマンだった。かつて平和的な関係だったはずのクリーに裏切られて虐殺され、長年続くクリー/スクラル戦争の原因ともなった事件によって危機的状況に瀕したコタチは過去にアベンジャーズの協力によって復活し、救世主の成長を待ち続けていたのだ。久々に出会った仲間と温かい時間を過ごすアベンジャーズだったが、ソーズマンによって恐ろしい事実が告げられる。コタチの滅亡とともに敵対関係に陥ったクリーとスクラルが長い時を経てついに和解し、復活したコタチと救世主を倒すためにこちらに向かっているというのだ。月の庭園に神秘を感じコタチと自分の間に神聖なつながりを感じていたアイアンマンは絶対に敵を食い止めると誓い、彼の呼びかけでアベンジャーズは団結する。しかし、クリーとスクラルを率いる新たな王がかつてヤング・アベンジャーズの一員だったハルクリングであることを彼らはまだ知らなかった。

コロナの影響で決して世界情勢が良好だったとは言えない今年。コミック業界も例にもれず、長い歴史の中でも異例な刊行ストップという対応を迫られていたわけだけど、そんな中何とか行うことが出来た毎年恒例のMarvel夏の大型イベントが本作Empyre。まさしく今年を象徴するコミックだけど、クリー、スクラル、コタチ、そして地球のヒーローが所狭しと大乱闘を繰り広げるさまはまさにクロスオーバーという感じで大いに楽しめる作品だ。

ライターはImmortal HulkやGuardians of the Galaxyを担当しているAl Ewingと、現在Fantastic Fourを書いているDan Slott。両者とも人気なだけあって、さすがのライティングで本作でも読者を飽きさせない巧みな物語を紡いでいる。特に、ここまで多くの数のキャラクターが出てくる中で誰にでも一度はしっかり見せ場を作っているのが本当に素晴らしい。アーティストはValerio Schiti、最近だとTony Stark: Iron Manを描いてたと思う。個人的にはBendis時代のGuardians of the Galaxyの印象が強いな。この人はデザインのセンスが最高で、本作でもアイアンマンのアーマーだったりセコイアの服装だったりで抜群のスキルを発揮している。コタチ軍の植物と人が混ざったような体形とか民族衣装みたいな戦闘服、本当に見てて飽きないな。あと個人的にはにやって言う笑い方がすごく好き。トニーとかロケットみたいな感情がはっきりとは顔に出ないキャラクターの表情がすごくうまいと思う。もちろん、シングが暴れまくるような見開きのアクションも最高だ。

本作はまさにクロスオーバーという感じでトンデモ規模の敵にヒーローが団結して闘う物語で迫力は抜群なんだけど、前述のとおり細かいキャラクターの動きまで完璧に描写しているんだよね。急に宇宙帝国の王に祭り上げられたハルクリングが単なるお飾りから真の王へと成長するのに合わせて同じく王の称号を持つブラックパンサーの心中が描かれたり、天才的な頭脳を持つアイアンマンとミスター・ファンタスティックのやり取りで物語が進んだりと、クロスオーバーらしくキャラクター同士の掛け合いでそれぞれの心情が描かれていくのが本当に面白い。

個人的にぐっと来たのはウィッカンとアイアンマン。遺伝子レベルの検査で見破れなかった偽物のハルクリングを夫のウィッカンが見破るシーンが最高で、その時のセリフ、"The way his mouth twitched, the way he held himself, the look in his eye... Yeah. Total stranger. I know Teddy. Even possessed or mind-controlled, I'd see something of him. That's not him."っていうのが本当にアツいよね。少し前にちょうどYoung Avengersを読んでたからビリーとテディのカップルはマジで推していきたい。最後の#6のアイアンマンもカッコよくて、何よりキャラクターの本質を見抜いてる感じが好きだな。アイアンマンといえば自身の犯した罪の重荷を背負いつつ、贖罪のためにヒーローになったキャラクター。本作冒頭で大失態をして物語通してずっと落ち込んでたトニーだけど、それこそがトニー・スタークの強さでもあるんだよね。映画版のアイアンマンの冒頭を思い出しながら読んでたけど、まさにアイアンマンのカッコよさを凝縮したような闘い方だった。

物語全体を通しても単にコタチ対ヒーローに落ち着くんじゃなくて、その闘いの中でクリーとスクラルの同盟の秘密がわかったり、コタチ側の真の黒幕もあぶりだされてくるのが面白い。同時にコタチとルキルという敵との闘いを描きつつややこしくならない程度に抑えているから、複雑だけど理解はできる物語が出来てるんじゃないかなと思う。ここら辺もやっぱりさすがベテランライター二人っていう感じかな。

今年の大型イベントということもあって、AvengersやFantastic Fourをはじめいろんなタイトルとかかわり、さまざまなキャラクターが入り混じる本作。お祭りイベントとしての高揚感と地に足の着いたライティングが楽しめる良作に仕上がっていると思う。今後もGuardians of the Galaxyや新タイトルのS.W.O.R.D.にもつながるらしいから読んでみて大正解、今後も楽しみだ。