アメコミもぐもぐ

アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Daredevil: Wake Up

Daredevil: Wake Up (Daredevil (1998-2011)) (English Edition)

デイリー・ビューグルに務める新聞記者ベン・ユーリックは、父親の失踪と同時に何かにおびえ言葉を話せなくなってしまった少年ティミーの記事を描くために病院へ取材に訪れていた。正体不明の何か、そしてヒーローであるはずのデアデビルにおびえる彼の秘密を解き明かすため奔走するベンだったが、社の編集長であるジェイムソンはより人気を集める記事を書けと言い、取材に訪れた警官もベンやティミーのことを相手にしない。何を隠そう、消えた彼の父はリープ・フロッグ、ニューヨークのB級ヴィランだったのだ。

Daredevilの決定的名作として名高いのはこのブログでも紹介したFrank Millerによるランだろう。しかし、その次に来る、もしくは同等に並ぶほど高い評価を受けているのがMarvel Knightsレーベルで連載されたBrian Michael Bendisによる作品だ。去年のはじめにデアデビルにハマってからこの二作は絶対読もうと決めていたけど、ついにBendisのランをまとめたオムニバスを購入したのでちまちま紹介していきたい。それにしても本作、オムニバスで二巻もあるんですよ。今までオムニバス自体は何度か読んでいるけどあの量でかつ二作とは、まさに圧巻のボリューム。

ライターは前述のとおりBrian Michael Bendis、アーティストはParts of a Holeでも紹介した水彩画のリアルなタッチが特徴のDavid Mackがメインで勤め、ティミー少年の妄想のシーンのみGuardian DevilやFatherを担当したJoe Quesadaが担当している。この二人、前者は非常に写実的で後者はデフォルメが効いたカートゥーンっぽい絵を描くととても対照的なコンビだけど、この違いが作品に活かされていてすごく面白いんだよね。本作で起きる事件は宇宙人がせめて来たり世界征服を企む悪者が出てきたりするわけではなく、家族の中で起きたあくまで地に足の着いたトラブルだ。そんな出来事がリアルな画風で描かれる一方、何かを心に背負ったティミー少年が抱く自分がヒーローになる妄想はQuesadaのコミカルな絵で描かれる。現実と非現実の対比を物語だけでなく、しっかり視覚に訴えて伝えてくるのがすごく説得力がある。ありそうでなかなか見ない演出だからすごく面白かった。

Bendisのランはかなり長い続き物なんだけど、本作はDaredevil誌の#16-19の話で、本格的に彼のランが始まるのはこの後長期的にコンビで担当することになるアーティストのAlex Maleevと組んだ#26から。本作はBendisの作品でありながらその後の続きとはほぼ関係ない独立した物語として楽しむことが出来る。

本作はデアデビルのコミックではあるものの、主人公はデアデビルではなくベン・ユーリック。作中で起きる事件もデアデビルの闘いではなく、あくまでベンの記者としての地味とも思える活動に焦点が当たる。冒頭にも書いたようにその事件というのがマイナーなヴィランの子供にまつわることなんだけど、この設定もなかなかBendisっぽいテーマだと思う。ヒーローやヴィランだけではなく、彼らに影響を受ける社会やその住人に注目するのが彼の作品の面白いところだ。Moon Knightの記事を書いたときも触れたけど、Bendisが書く会話って妙に間延びしてたり中身がなかったりするんだよね。それが好きかは人によると思うけど、自分はこのライティングこそがキャラクターに人間味を与えて世界観をリアルにしてると思ってる。なんだかんだ言ってこういう社会派な作品とはすごく相性がいいと思う。

ベン・ユーリックというキャラクターは決して超人ではなく、特別な力も自信も強い精神も持っていない。善良な市民でも凶悪な組織や殺し屋に脅されれば立ち上がれなくなってしまうのが普通、そんな立場の男だ。これまでも彼はエレクトラには刺され、キングピンには脅され、何度もひどい目にあってきた。そのうえ彼の上司はジョン・ジョナ・ジェイムソン。デアデビルの正体を知りヒーローに信頼を置いているベンはヒーロー嫌いのJJJと何度も対立し、さらには彼が社会のためと思って書いた記事も売れないと判断されればすぐ没にされてしまう。

それでもベンはデアデビルに協力しながら、社会の闇に日の光を浴びせる道を選んだ。テレビがメディアの大御所となった時代に新聞記者としてベンが働き続けるのは、ペンを武器にすれば誰も目を向けないような不条理な世界や不幸を公にできるからだ。どんなに脅されて、殺されかけても、ベンは最後には自身の道で悪と闘うことを選ぶ。彼はスーパーヒーローではないかもしれないが、この気持ちはヒーローの志そのものなんじゃないだろうか。最後に明らかになる事件の全容も、立ち上がる勇気の大切さを教えてくれるだろう。

入社したばかりの新人だったBendisに主人公がほとんど登場しないコミックを書かせた当時のMarvelの姿勢もなかなか挑戦的だけど、そんなアグレッシブなMarvel Knightsブランドだからこそ生まれたであろう今にも続くBendis作品の面白さ、そしてDaredevilの魅力を詰め込んだ作品、まさにこんなデアデビルのコミックが読みたかったと思わせられる名作だろう。

 

Daredevil: Wake Up (Daredevil (1998-2011)) (English Edition)

Daredevil: Wake Up (Daredevil (1998-2011)) (English Edition)