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アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Scarlet Witch by James Robinson

Scarlet Witch by James Robinson: The Complete Collection (Scarlet Witch (2015-2017)) (English Edition)

スカーレット・ウィッチと呼ばれる魔女ワンダ・マキシモフと、その師であり他界していながらも魂として現世に残り続けているアガサ・ハークネスは、この世から魔術の力が衰退しているということに気づく。二人は原因を突き止めるべく世界中を旅することになるが、そこにはワンダの出生の秘密と、別の魔術師の影が落ちていた。

少し前に完結し世界中で話題になったドラマシリーズ、ワンダヴィジョン。アイアンマンやスパイダーマンと違ってこれまで映画の単独作品になったキャラクターでもないのに、どうやらDisney+でも当時の時点で一番見られた作品らしく配信日には各地のサーバーが落ちていたという話を聞くと、Marvelのキャラクターもすごく影響力を持つようになったなと少し感慨深く感じる。個人的にもかなり楽しめた作品だったけど、そこの話はありとあらゆるところで語りつくされていると思うので今はおいておこう。今回紹介するのは、そんなワンダヴィジョンの配信に合わせて再販された、六年前の彼女の個人シリーズの紹介をしたい。

そもそもコミックでのスカーレット・ウィッチというと、なかなか複雑な位置にいるキャラクターになってしまっているのは否めない。X-MENの宿敵マグニートーの娘という生い立ちを持ち弟のクイックシルバーとともに一度はヒーローたちとぶつかるも、のちには改心して父親に反旗をひるがえし、キャプテン・アメリカとともに栄誉あるアベンジャーズの二期メンバーとして歴史に残る活躍を見せている。チーム参加後はホークアイ、ワンダーマン、ヴィジョンと様々な仲間と色恋沙汰があり最終的にはヴィジョンと結婚するに落ち着くも、彼女の能力の強大さゆえに暴走しアベンジャーズ壊滅のきっかけを作ってしまう。さらにその後は再度暴走して世界そのものを改変してしまった挙句、地球上のミュータント遺伝子をほとんど消失させるという大惨事を引き起こしてしまった。それからはしばらく落ち着いたと思っていたら今度は実は彼女の新しい両親が判明し、マグニートーは全くの他人でしたということが判明する。そして能力もミュータント遺伝子由来ではなく、ハイ・エボリューショナリーという人物によって遺伝子を改造されていたことが原因だったということが分かった。

パッと見ればわかってもらえると思うけど、このキャラクターとにかく歴史がややこしいことで有名になっている。前にヒーローもののアメコミは様々なライターが長い歴史の中でキャラクターにいろんな肉付けがされていくことが醍醐味だと思うと書いたことがあったけど、スカーレット・ウィッチに関してはある意味この仕組みの悪い部分が出てしまったといえるだろう。歴史が長い分設定が無駄にややこしくなっていくのはアメコミの問題点だし、一見さんお断り的な風潮が出来てしまっているのも無理はないかな、とも思ってしまう。

もう一つ面倒くさいのは、いつの間にかワンダの印象が暴走してやらかした人、という風になってしまっていることだ。いかんせんBrian Michael BendisのAvengers: DisassembledとHouse of Mの印象が強すぎたせいで、それまでは普通にヒーローとして通っていたはずのワンダもいつの間にかアベンジャーズのやべーやつ的なイメージを植え付けられることになってしまった。これに関しては同じく一時の展開のせいでDV夫代表のような扱いを受けるようになってしまった初代アントマンことハンク・ピムを例に、Marvelsや九十年代のAvengersを担当していたライターKurt Busiekがツイートで意見を述べている。こういう強い印象がキャラクターについてしまうと、誰かがもとに戻そうとしても後任者が必ずといっていいほどまたキャラクターを捻じ曲げてしまう、その結果歴史あるキャラクターが歪んでいってしまうという風な流れで、かつての王道ヒーローとしての風格を取り戻すのが難しいというのもクリエイター側の悩みのようだ。

そんな複雑なポジションにいるキャラクターの約二十年ぶりの、しかも初となるオンゴーイングの個人誌ということもあり、いろんな意味で注目していたシリーズだったのでちょうどドラマの予習もかねて読んでみたけど、そんな本作についていろいろ分けて感想を書いていきたい。

まずアートについて。一番最初に書いておきたいのはカバーを担当するDavid Ajaの絵のすばらしさについて書いておきたい。HawkeyeやImmortal Iron Fistで知られるアーティストだけど、どこか版画のようなシルエットが特徴な絵柄でものすごく素晴らしい構図の一枚絵を描いている。かっこいいや美しいなど、絵を見た時の感想って色々種類があるけど、Ajaの絵を見たときに思うのは間違いなくおしゃれ。毎号毎号カバーを見るたびに思わずうなってしまうような素晴らしいアートを見せてくれるからすごく楽しめた。中身のアートまで担当していたHawkeyeでも、持ち前のおしゃれさに加えてコマ割りも駆使したスタイリッシュな演出が光っていたから興味がある人はぜひ読んでみてほしい。

中身のアートに関しては本作では毎号それぞれ違うアーティストが担当するという形式をとっているので、十五号それぞれで違った雰囲気を楽しむことが出来る。特に本作の物語はワンダが世界の各国を旅しながら大筋の話が進んでいくんだけど、物語中ワンダがいる国に応じて担当アーティストもその国の出身者が担当している場合が多いのが面白い。スペインからはJavier Pulido、フランスからはMarguerite Sauvage、そして日本からはTransformerでおなじみ、座間慧先生が参戦している。アベンジャーズウルヴァリンの映画でも話題になったけど、アメコミにおける日本ってめちゃくちゃな描写が多いんだけど、今回は日本人が描いているだけあってめちゃくちゃ普通なJRの京都駅や任天堂の本社が出てきて逆に違和感を感じてしまった。ともあれいろんな絵柄が見れるから、ずっぷり絵の雰囲気にハマることはなくても毎回飽きずに読めて楽しかったな。

さて本題の物語についてだけど、ライターのRobinsonはスカーレット・ウィッチというキャラクターを作り直そうとしているというのは一番強く感じた。長年の連載の中でややこしくなってしまった彼女のオリジンを仕切り直し、大勢いるアベンジャーズの一人としての役割しか与えられてこなかった彼女に個人で動く目的を与え、これまで彼女にいなかった宿敵を作って、ワンダが個人の物語を紡いでいく下準備に尽力した作品だったといえるだろう。ワンダの両親が新たに明らかになり伏線もまかれたことで、今までのややこしい話は忘れてリセットされた彼女の生い立ちに関する謎が新しい話の根幹になっているし、エメラルド・ウォーロックという新たな敵や魔術師と色の奇妙なつながりという新しい設定も出てきたから、Marvelの魔法世界そのものを広げるきっかけにもなるだろう。

ただこの作品が上手くできなかったのは、話のタネをまくだけでそれをうまく育てられなかったことだ。全十五号というのを長いとみるか短いとみるかは人それぞれだけど、最終話の一話手前でワンダの父親に関する謎が明かされるという回収する気のない伏線だったり、最終話でエメラルド・ウォーロックが復活して、いわゆる打ち切り漫画の俺たちの闘いはこれからだエンドみたいな終わり方をしてしまっているのはとにかくもったいないの一言に尽きる。スカーレット・ウィッチを再構築しようとしたものの、うやむやのまま終わってしまった作品となってしまった。

ただ個人的にはドラマでもおなじみだったアガサ・ハークネスとワンダの辛みが意外と好きで楽しく読めたりしたんだよね。MCUではバチバチの敵同士だったのにコミックではほとんどバディものっていうくらい仲が良かったから結構驚いたけど、このコンビもまたほかの場所で見られればいいな。

微妙なところで終わってしまった本作だけど、ワンダの設定を仕切り直しただけではなく、キャラクターのこれからの成長につながる伏線や敵が出てくるだけあって、スカーレット・ウィッチを語るうえでは外せない作品になっていくんじゃないかな。ワンダの父親がだれか、エメラルド・ウォーロックと彼女がどんな闘いを繰り広げるのかはもちろん、色と魔術師の強いつながりも明かされたから、Marvelの魔法キャラクターを集めてグリーン・ランタンみたいなことしても面白そうだな。昔書かれた話を別の作家が深めていくのもアメコミの第五位だと思てるから、今後誰かが本作の伏線を拾ってまたワンダの物語を広げるときが来るまで気長に待ちたいな。