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アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

映画版ブラックパンサーのリキャストについて

今回はアメコミの作品そのものの紹介ではないけど、コミック関連の話でどうしても書いておきたいと思ったことがあったので、半分雑記のような形で記事を書いていきます。

八月二十九日、映画のシビル・ウォーやブラックパンサー、そしてインフィニティ・ウォーとエンドゲームのアベンジャーズ二作でティ・チャラことブラックパンサーを演じたChadwick Boseman氏が亡くなったそうです。四年前から大腸がんで闘病生活を送っていたそうで、そんな過酷な状況の中あのブラックパンサーでの名演技を披露していたと思うと、本当に偉大な、すさまじい俳優だったんだなと改めて思わされます。

自分は映画業界の話には疎くて基本的にアメコミ原作のものしか見ないので、Boseman氏の業績に詳しいとか、ものすごく思い入れがあったかと言われればそうだとは言えません。それでも、ハリウッドの中でも最高レベルの予算を賭けた大作映画の主演を務める、しかもキャストのほとんどが黒人という挑戦的な試みをするプレッシャーをものともせず、筋トレはもちろん英語の中にアフリカの言語の訛りを取り入れるなどの徹底した役作りを行ったうえで、五十年以上続くブラックパンサーというキャラクターを銀幕で見事に体現した氏の演技には自分も感動させられました。黒人主体でヒーロー映画を作ろうとする中で心無い人たちからの圧力があったであろうことは想像しがたいことではないし、実際にファンのコミュニティ内でも差別的なコメントを見かけることは少なくありませんでした。そんな社会の向かい風と自身の体調に立ち向かい世界中のファン、特に彼と同じ黒人の子供たちに勇気を与えたBoseman氏はまさに現実世界のヒーローと呼ぶにふさわしい人物だと思います。ご冥福をお祈りいたします。

今回自分が気になったのはBoseman氏の逝去に伴って話題に上がっている、ブラックパンサーをリキャストすべきかという問題です。彼の作品やキャラクターへの功績を考えれば、Boseman氏抜きではブラックパンサーという映画、そして現在のコミック業界の多様性を重んじる姿勢はなかったといえるでしょう。それだけに次のブラックパンサーの映画でティ・チャラを別の俳優に演じさせるのではなく、キャラクターごと静かに退場させた方がいいという意見を何度か目にしました。これに関して自分はコミックの読者として自身の意見を書いておこうと思います。

まず、自分はブラックパンサー役のリキャストに賛成です。確かに自分も今はBoseman氏以外が演じるティ・チャラの姿は想像できませんし、氏を超えるブラックパンサーとしての演技はあり得ないと思います。しかしそれでも自分はアメコミの今までの歴史、そして自分の考えるアメコミの魅力という点から、ブラックパンサー役は誰かに受け継がれていくべきだと思います。

まずブラックパンサーというキャラクターは今から五十四年前にStan LeeとJack Kirbyの手によって創られ、Fantastic Four #52にて初登場を果たしました。先に挙げたLeeとKirbyの二名はほかにも多くのキャラクターを作り上げたことで有名ですが、両者ともに現在は故人になってしまっています。そんな彼らが作り上げたキャラクターはその後多くの作家の手に渡り、その時代ごとに新しいブラックパンサーの物語が別々の人間によって紡がれていきました。多くのクリエイターがそれぞれの思うヒーロー像を物語に込めた結果、ブラックパンサーというキャラクターは様々な視点からの要素を肉付けされ、今の姿へと進化してきたのです。

自分がMarvelやDCなどのヒーローものコミックが好きなのは、このキャラクターが多くの作家に受け継がれていくという点が大きいのだと思っています。例えば今自分が紹介しているImmortal Hulkは、ハルクというキャラクターの原点に焦点を当て、ヒーローものでありながらホラー描写に挑戦するという試みをしています。そこだけ見れば初期のStan LeeとJack Kirbyの作風から変わっていないように思えますが、この作品の主人公は彼らが考えたハルクではなく、Paul Jenkinsが生み出したハルクの別の人格であるデビル・ハルクです。本作にはそれだけでなく、Peter Davidが考案したハルクのもう一つの人格であるジョー・フィグジットことグレイ・ハルクやその他多くのライターによる設定が組み込まれており、さらには本作のライターAl Ewingが考えたハルクの不死設定や神話的解釈など独自の設定も盛り込まれ、そのすべてが物語を動かす歯車となっています。このように、コミックの物語はクリエイター一人によって生み出されるものではなく、多くの作家によってキャラクターが受け継がれることによって複雑化し、より奥深いものへと進化してきました。それと同時にキャラクターそのものも様々な視点から考察され、より奥行きのある人物へと変わっていったのです。

話が少しそれましたが要点をまとめると、自分が思うアメコミの面白さはキャラクターの物語が終わることなく様々な作家に受け継がれるがゆえにさらに奥深くなっていくこと、簡単に言えば終わらないことこそがアメコミの強みだと思うのです。これは基本的に一年間で物語が終わる日本の特撮番組などが逆にそれゆえの一定の世代への密着感、俺たち世代の仮面ライダー○○、みたいなそれぞれの年代特有のなつかしさを武器にしていることに触れ、より対照的に終わらないことはアメコミ特有の魅力だと思うようになりました。

そして今回のブラックパンサーなのですが、自分はこのティ・チャラの物語もさらに続いてほしい、終わらないでほしいと思っています。LeeとKirbyの手によって生まれ、さまざまなライターの手によって肉付けされ、Boseman氏の熱演によってスクリーンに登場した彼の物語がここで終わってしまうのはあまりに悲しすぎます。確かに氏の演じるブラックパンサー以外は今は想像できませんが、また新しい俳優が違った角度の演技でティ・チャラを表現することは、コミックがライターに受け継がれたように、ブラックパンサーの新しい側面を開拓することにつながると思うのです。現段階ではまだ続編の動向に関する発表はありませんが、自分はアメコミの一読者としてこのような意見を持っています。

今後ブラックパンサーがどうなるかはともかく、少なくともBoseman氏の尽力がなければティ・チャラの物語は始まってすらいなかったことは確かですし、彼の演技が世界中で熱狂を生み、フィクションの世界にとどまらず現実にまで人種差別について考える波紋を生んだことは間違いありません。改めて彼の偉大さを認識し、一人のファンとして追悼したいと思います。

 

ブラックパンサー (字幕版)

ブラックパンサー (字幕版)

  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: Prime Video