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Daredevil: Father

Daredevil: Father (English Edition)

デアデビルことマット・マードックは自身が失明する前、過去に見た光景を悪夢としてみることに悩まされていた。そんなある日、彼の法律事務所に末期がん患者である既婚女性マギー・ファレルがやってくる。彼女と夫のショーンはマギーのがんが近所の工場の廃棄物による影響だと主張し裁判を起こそうとしていたが、マットはなぜか初対面のショーンに見覚えを感じるのだった。そのころヘルズ・キッチンでは正体不明のシリアルキラーによる殺人事件が発生。被害者を殺した後目をえぐり取る犯人はジョニー・ソケットと呼ばれ、街を騒がせることなる。同時に街に新たに表れたヒーロー集団サンテリアンズや実業家のネロへの注目など次々と事件が起こるヘルズ・キッチンで、デアデビルは殺人事件を止められるのか。

ちまちまとJoe QuesadaによるDaredevil誌のオムニバスを紹介してきたけど、Guardian Devil、Parts of a Holeときて最後に収録されているのが本作Father。ミステリー短編として書かれた作品だからそれまでの二作と比べて独立性は高いけど、これがかなり面白い作品だった。

題名のFatherだけど、マットの父親といえばご存知ジャック・マードック。落ち目のボクサーだった彼は生活のために犯罪組織の下っ端として働いていたが、最後に誇りを捨てきれずに持ち掛けられた八百長試合を放棄して報復に殺されてしまう。ジャックの死がデアデビル誕生のきっかけになったことは言うまでもない。こういう親、親戚の死をきっかけに正義に目覚めるヒーローというとスパイダーマンバットマンなど、結構メジャーなキャラクターもいるから悪く言えばありきたりな設定に思えるけど、実はジャックはほかのキャラクターとは全く違うところがある。

トーマス・ウェインやマーサ・ウェイン、ベンおじさんは主人公のお手本となるような善良な人間だった。いや実はバットマンスパイダーマンもそんなに詳しくないからもしかしたら「ベンおじさんは超悪人だった!」みたいな展開があったりするのかもしれないし、実際トーマス・ウェインが悪者になってるみたいなことも話半分では聞いたこともあるんだけど、少なくとも彼らが死んだときのブルース少年やピーターにとってはトーマスやベンはいい親だったはずだ。だからこそ彼らはそんな悲劇を二度と起こさぬよう、迷いなくヒーローになる道を選んだ。

しかし、ジャック・マードックという人間は決して善良な市民ではなかったし、幼きマットにとっても決して心から誇れる父親ではなかったというのが彼の面白いところだ。彼の経歴に汚点があるのは言わずもがな、ジャックは自身の言いつけを守らなかったマットを殴ったことさえあった。もちろんマットは父親を尊敬していたし誇りを持ったボクサーだと思っている。しかしそんな父親でも道を誤ったからこそ彼はだれもが従うべきルールが必要だと思い、マットは法律を学ぶ道を選ぶ。それと同時に誇り高き父親の死からあきらめない魂を学び、ヒーローとなり闘うことを志したのだ。こんなオリジンを持つデアデビルだからこそ、正義感だけではなく人間の醜い部分も持った複雑なキャラクターとして完成しているんだと思う。ジャックの善悪のまじりあった複雑な人間性デアデビルという作品そのものに反映されている、といっても過言ではない。

本作には多くのキャラクターが登場するが、その多くが過去の父親との因縁を引きずって生きている。そんな中発生した殺人事件の推理が進みながら、彼らが父親から受けた影響についての秘密も明らかになっていくというのが本作のシナリオだ。かなりがっつりなミステリーだからネタバレは控えるけど、この作品が面白いのは単純に意外な犯人がわかっていくだけではなく、その動機にまた大きなどんでん返しがあるからだ。犯人の動機はまさにデアデビルというキャラクターの根底にかかわる事件がきっかけになっているが、ミステリーの手法でデアデビルの核心に迫っていく物語はまさに圧巻だ。

ジャック・マードックは完全な善人ではないし、マットのお手本になるような人間では決してなかった。しかし、それでもマットは父親の中に眠る善の心を見逃すことはなかった。この物語は父が子に与える影響の大きさを様々な視点から描きながら、改めてジャック・マードックの心の小さな善がヒーローを生んだことを知らさせてくれる物語だと思う。デアデビルの描く話として完成していながら極上のミステリーを楽しませてくれる素晴らしい作品だ。

 

Daredevil: Father (English Edition)

Daredevil: Father (English Edition)