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Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 3: Through Hell

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 3: Through Hell

自分が選んだ道が本当に正しいのか疑問を抱きながらも、今度はデアデビルではなくあくまで一人の市民として人々を助ける道を選んだマットは、元恋人で暗殺者であるエレクトラと合流して新たな戦いに向けての準備を始める。そんな中、新たにニューヨーク市長になったキングピンことウィルソン・フィスクは自身の政界での計画のためアメリカでもっとも権力を持つ一家、ストロムウィン家と昼食を共にするが、ここで彼にも予想できない事件が起こる。

今自分が一番ハマっているタイトルといっても過言ではないZdarskyのDaredevil誌の新刊がついに到着。現在の社会情勢のせいでかなり発売が遅れていたから、手元に届いただけでめちゃくちゃ安心してしまった。何とこのシリーズ、アメコミ界で最も権威ある賞の一つといわれるアイズナー賞のBest Continuing Series部門にノミネートされていて本国ファンからの評価もかなり高いことから、今の勢いがすごく感じられる。

相変わらず読後のずっしり感は健在で、派手ではないけど着実に物語が動いていく展開のおかげでじわじわ面白くなっていく感じの物語だ。ただ、基本的にキャラクターの独白や議論でテーマの深堀や物語の進行が成り立っているせいで本作はめちゃくちゃセリフが多い。ただでさえアメコミは日本の漫画と比べてセリフが多いと感じるけれど、このタイトルは中でもかなり多い方なんじゃないかな。これは作品の問題ではないけど、このせいで自分の英語力だと読んでいてかなり疲れる。読んでいるときも一回目はとにかく物語を追うのに精いっぱいで、二回目でやっと物語の中の議論に集中して考えていける状態だ。こういうことがあると英語を勉強しなきゃという気持ちになるし、一回でスムーズに読んでかつ考え込む余裕もあれば何倍も楽しめる作品なんじゃないかな。

前巻の最後で再度マスクをかぶることを選んだマットだけど、本作ではより一層彼の闘いへの復帰への道がはっきり敷かれる。とはいえ、決してデアデビルに戻るわけじゃないというのが面白かった。最初に読んだときは覆面かぶって闘ってるのにデアデビルではないっていうのはちょっと都合がよすぎるんじゃと思ったけど、改めて読み直すと本作のマットって積極的に交戦してないんだよね。あくまで襲われている人を助けたり情報を聞き出したりするだけで、直接的な戦闘は避けるように動いている。やってることもこれまでみたいに犯罪者を倒すんじゃなくて、腐った社会のシステムや法そのものを正すためにシステムの上にいる政治家や権力者を狙う。人々を助けたいという思いが原動力なのは変わらないけれど、やっていること自体はデアデビルとはほとんど別物になっているわけだ。一見わかりにくいコンセプトだけど、しっかり差別化点もあってかなり面白い試みなんじゃないかな。

現実的な社会の中で活動するヒーローを描いたコミックといえば以前紹介したFriendly Neighborhood Spider-Manもそうだけど、あちらが法の中で闘う道を模索してたのに対してDaredevilは法そのものの正当性に疑問を投げかけるっていう展開もまた面白い。もともと法を信じて行動しているのが特徴だったデアデビルがここまで変わっていくのもびっくりだけど、マットがどんな闘いをするのか、最終的にはどうやってデアデビルに戻るのかも楽しみだな。

続きが楽しみといえば、ついに本作からがっつり登場したエレクトラも今後が気になるキャラクター。一巻のKnow Fearの時と同じMarco Checchettoがアートを担当してるんだけど、この人の描くエレクトラが美人ですごくきれいなんですよ。並行してFrank Millerのランも読んでるからエレクトラといえばストレートの黒髪だと思ってたんだけど、Checchettoのエレクトラはカールのかかったふんわりした髪で、これが闘ってるときに流れたりするからすごく美しい。本作だとまだ意図が読めない感じで今後も物語にかかわってきそうだから、今後の活躍にも期待だ。

このタイトルって結構出てくるキャラクターが多くて、しかもそれぞれが別々の場所で動いてる群像劇っぽいところがあるから全体を把握するのが難しいところがあるんだけど、特にその中でも今までマットたちとは全く別のところで動いていたキングピンがやっと本筋につながってきたのが本作の何よりの見どころじゃないかな。裏社会から手を引いて政界に活躍の場を移したからどうマットとつながるのか不思議だったけど、まさかマットが政界に手を出していくとは。物語のテーマとしても、法を守ることと人々を助けることが一致しない社会において、その根源を作っているのは何かと考えたら確かに法そのものを作っている政界にたどり着くのはすごく妥当な展開だ。新しく登場したストロムウィン家も、いきなりあのキングピンを完全に這いつくばらせる活躍を見せて驚き。ちょうどBorn Againみたいな狡猾で完璧主義なフィスクを見た後だったからあのキングピンがこんなに簡単にやられていいのかという気持ちもあったけど、そんな圧倒的な力を持っていたはずの彼が咬ませ犬になるからこそストロムウィンの権力の強さが印象に残るのかもしれない。個人的な印象だけど、ドラマ版のキングピンがコミックに比べてかなり感情的なキャラクターだったからそっちの影響もあるのかな。本作でも意外と感情を外に出すキングピンが見れてかなり新鮮だった。

やっぱり書きたいことが多くてなかなかまとまらないけど、やっぱりDaredevil誌めちゃくちゃ面白いです。意外とすぐ次の巻も出るみたいだし本当に待ちきれない。読後に頭の中でテーマが響くというか、じっくり考えこんじゃうようなどっしりした内容のコミックが読みたい方はぜひ。

 

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 3: Through Hell

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 3: Through Hell

  • 発売日: 2020/06/16
  • メディア: ペーパーバック