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Rocket: The Blue River Score

Rocket: The Blue River Score

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの仲間たちと離れて一人の時間を過ごしていたロケット・ラクーンの前に、元恋人であり窃盗生活時代のパートナーでもあるカワウソのオッタが現れる。彼女の故郷は自然に恵まれた星でカワウソたちは美しい河川で過ごしていたが、惑星の資源に目を付けた開発企業がダムの建設を計画し、このままでは環境が台無しになってしまうという。ロケットはオッタにその会社が持つ土地の権利書を盗み故郷を救ってほしいと頼み込まれるが、その権利書が保管されている金庫のセキュリティは銀河で最も強固で、一人で盗むのは不可能に近い。ロケットは人脈を伝って協力な仲間を集め、ミッションへと挑む。

Immortal HulkやEmpyreなどの話題のシリーズを担当することで今や一躍時の人となったAl Ewingがライター、最近ではイベントのContagionなどを手掛ける渋い雰囲気が特徴の絵を描くAdam Gorhamがアーティストとして参加したロケット・ラクーンが主人公の個人誌が本作。アメコミを今実際に追っている人はご存知かもしれないがEwingは今年の一月からGuardians of the Galaxyのライティングを担当し始めていて、その話を書く前に同じキャラクターを担当した本作の紹介をしておこうと思ってこの記事を書いている。本作の出版は今から約三年前、ちょうどガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの実写映画の二作目が公開された時期だから、一見Marvelがよくやりがちな映画から流れてきた新規客層を狙うための映画合わせの新シリーズに思えるけど、実際読んでみるとかなりコアな読者を狙った内容でかなり読みごたえがある作品だった。逆にキャラクターにあんまり詳しくない人はついてこれなくて読みにくく思うことがあるかもしれないから、買う際には注意した方がいいかも。

ロケット・ラクーンってMarvelの有名ヒーローの中でもかなり複雑かつ特異で、全く違う無数のイメージを持ったキャラクターだと思う。一番よく見かけるロケットはガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのマスコットとして、かわいい担当としての姿。実写映画の宣伝でもしゃべるアライグマという絵が使われているのを何度も見たし、ガーディアンズといえばロケットだと思う人も多いと思う。彼のアメコミを読んでいる人からするとロケットはヒーロー、ガーディアンズの技術担当だという人もいると思うし、さらに詳しい人は彼がガーディアンズに入る前、惑星型の巨大精神病院で警察として闘っていたころの姿を思い浮かべるかもしれない。しかしEwingがここで創り上げたロケット像はこのどれとも違う、ハードボイルド風な男としてのロケットだ。本作で冒頭からロケットには盗みの依頼が舞い込み、それを彼は持ち前の高い知能を活かした戦略と奇妙な道具と仲間の能力で乗り越えていくし、その後も訪れる様々な危険を彼は普段ヒーローがやるような派手でかっこいい道とは一味違うウィットと運で解決していく。イメージで説明するならオーシャンズ11ミッション:インポッシブルプリズン・ブレイクを混ぜて、そこに宇宙が舞台になったコミック特有のぶっ飛んだ仲間や技術のアイデアが絡んでいく感じ。Ewingはちょっと変わったライティングの技を使いながら、うまくコミックの誌面でハードボイルド小説みたいな雰囲気作っている。本作の一番の特徴は圧倒的なナレーションの文章の量。とにかく場面の状況を説明したがるし、時にはページの三分の一が白地で、ぎっしり文章が詰まってるなんてこともある。文字フォントもどこかタイプライターで打ったような感じでページ全体の雰囲気として古風な小説っぽいし、絵の表情やキャラクターの独白ではなく第三者視点からのナレーションで心情を説明していく手法も雰囲気マシマシでかっこいい。

テーマとして素晴らしいのは何も手法だけでなく、何といってもそれらのスキルで醸し出したハードボイルドな空気とロケット・ラクーンというキャラクターが絶妙に合うところもポイント。もともと賞金稼ぎとして暮らしていたというバックグラウンドはもちろん、もともと少し人を寄せ付けない塩対応な感じだったり、かと思えばふとしたところで情に厚い一面をのぞかせたりと、まさにこの手のフィクションの主人公の定番要素を掛け持ちしてる。そのマッチ度たるや、普段はあんなにハチャメチャコメディやったり正統派ヒーローをしてるロケットを見てるはずの自分でも、生まれるユニバースさえ違えば探偵かカウボーイにでもなってるんじゃないかとおもってしまうほどだ。ロケットにハードボイルドというなかなか珍しい解釈を開拓していく本作だけど、決して突飛なわけじゃなくきちんと元のキャラクター造形を活かして新しい方向性に向かってるのが面白い。ここまでの路線を踏まえての物語の落としどころもすごくしっくりくるし、ロケットの孤独や自己嫌悪に触れていく深い話だからどっしりした読後感もよかった。

これまでのシリーズのRocket RaccoonからあえてタイトルをRocketに変えた本作だけど、読んだ後に改めてみるとしゃべるアライグマというコメディ要素を抜いて、純粋にロケットという一人の男の生きざまに焦点を当てるという宣言が感じられる気がする。新しく始まるGuardians of the Galaxyの予習にはもちろん、これまでとは違うロケットが見たいというファンに読んでほしい。

 

Rocket: The Blue River Score

Rocket: The Blue River Score

  • 作者:Al Ewing
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2017/12/26
  • メディア: ペーパーバック