アメコミもぐもぐ

アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Absolute Carnage

Absolute Carnage

太古のシンビオート、グレンデルを身にまとうことで死からよみがえったカーネイジことクレタス・カサディは闇の神ヌルを復活させるために暗躍を始めた。シンビオートに寄生されたものの体内に残る微量のシンビオート、コデックスを集めることでヌルとつながろうとするクレタスは対象者を虐殺し、着実にコデックスを吸収していく。カーネイジ、そしてヌルを止めるために闘うヴェノムと彼に協力したスパイダーマンだったが、カーネイジの力はすでに想像を超えていた。

開始から約二年ほど続いてきたDonny CatesによるVenomの初めてのイベントであり、今までの物語の流れを一点にまとめるクライマックスとなるのが本作Absolute Carnage。ヌル、コデックス、カーネイジの復活と、Venom本誌だけでなく番外編の一話完結シリーズであるWeb of Venom誌の物語まで拾っていきながら最初から最後までどんちゃん騒ぎな話が続いていくところがいかにもお祭り作品という感じだ。ライターは前述のとおりおなじみのCatesだが、アーティストもシリーズ当初に担当していたRyan Stegmanがカムバック。彼の描くシンビオートの液状の体や触手の絶妙な気持ち悪さだったり、若干デフォルメされた顔の描き方がもともとシンプルなデザインのヴェノムとうまくマッチしてたり、人間の真に迫る表情がものすごかったりとStegmanの絵の魅力を改めて見せつけられた。

物語の方はいたってシンプル、とにかくカーネイジとヒーローたちが闘いまくる。冒頭からクレタスの力で暴走させられたエディが指名手配され、見えないところでカーネイジはコデックスを次々吸収してどんどんパワーアップしていっているという絶望的な状況で、それからもコデックスを持つ人々をめぐってカーネイジとヴェノム達ヒーローがひたすらぶつかり合う。もう細かい説明や伏線の配置は今までのシリーズですでに終わってる、だからイベントではもう最初からずっとクライマックスでひたすら盛り上がる展開をぶっ通していくっていう理論だ。Catesのライティングの良さとして、設定づくりや叙述トリックの面白さというのは確かにある。でもそういうのはあくまで下地作りにおけるテクニックでしかなくて、設定づくりを続けたまま物語を終わらせることは難しい。そういう細かい下地を整えた後、どこかでその上で展開される派手な展開で締めないとせっかくの設定や雰囲気は全部パーになってしまうのだ。だから本作がそういう細かい技術を見せるよりも派手で大きな展開にがっつり焦点を当てたのは大正解だったと思うし、それを可能にしたこれまでの下地もすごく活きていたと思う。

もちろん、いくら派手な展開にページを割いているといっても細かい演出に気を使ってないというわけではない。物語にかかわらないとはいえ雰囲気づくり、特にシリーズでもずっと意識されていたホラー描写に関しては相変わらずピカイチだ。カーネイジがシンビオートのミミズみたいなのを使って人々を洗脳したり、味方に姿を変えて潜んでいたりするシーンは特にぞっとした。大筋としてはダイナミックだけど随所にいつものCates作品の空気も感じられるのがすごくおいしいし、Venomの作品の雰囲気も引き継いでいるのもうれしい。

これまでシリーズで出てきたテーマがきちんとイベントにも引き継がれているのもよかった。エディとシンビオートはもちろん彼の実の息子であることが分かったディランとの関係にもしっかり注目して、誰かとつながることで強くなる物語の軸も貫いているからイベント誌ながら今までのVenomの続きとしてすんなり読めたし、キャラクターが多いみたいな絵面だけじゃなくて気持ちも盛り上がれた。イベントとしてだけじゃなくてシリーズの続きとしてもクライマックスとして最高だと思う。

クリエイターの持ち味はしっかり活かしながら、イベントで大事なお祭り感もしっかり持っているのが本作の見どころ。今までの伏線を一気に回収してカーネイジとの闘いのクライマックスを盛り上げてくるうえ、ラストは今後のシリーズにもがっつりつながりそうな展開で締めるのでシリーズを追う人には必読の一冊だ。

 

Absolute Carnage

Absolute Carnage

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2020/01/21
  • メディア: ペーパーバック