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Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 2: Hostile Takeovers

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 2: Hostile Takeovers (Friendly Neighborhood Spider-Man - 2018 (2))

メイおばさんが運営しているホームレスの人々のための保護シェルターで侵入事件が発生。ピーターはスパイダーマンとして現場に向かうが、そこにいたのはヴィランとしての活動を引退したはずのプラウラーだった。さらにそこに同じく侵入者を捕まえようとする元二流ヴィランのブーメランも現れ、事件は爆発事故にまで発展してしまう。翌日事の真相を突き止めるためプラウラーの正体であるホビー・ブラウンに詰め寄るスパイダーマンだが、彼はなんと真犯人の存在を語りだす。

Tom TaylorのFriendly Neighborhood Spider-Man第二弾でありシリーズの最終巻。前巻でもタイトルの通り街やそこに暮らす人々に焦点を当ててスパイダーマンの活躍を描いていた本シリーズだけど、本作でもテーマは変わらず社会というシステムの中でヒーローが出来ることをしっかり描いている。

話はだいぶそれてしまうけど、自分は今配信サービスで言わずと知れた人気特撮ドラマ、仮面ライダーシリーズの中の仮面ライダークウガという作品を見ている。特撮は三年ほど前から追い出して絶賛ドはまり中でこのクウガもすごくいいんだけれど、とりわけこの作品が面白いのはヒーローの力をあくまで暴力として描いているからというのが大きい。アクションが要求されるヒーローものコミックや番組には必ずと言っていいほど暴力が絡む。それこそがヒーローの強さを作っている要素なことは間違いないし、これは本作の主人公スパイダーマンも例外ではない。ただ暴力にはある程度の限界があると個人的には思う。どんなにヒーローが強くたって決められた社会規範の中で生きていくうえではやれることは限られてくるし、親愛なる隣人といったって直接できることといえば明らかな悪人や犯罪者を殴り飛ばすだけだ。それが一つの事件を防ぐことにはなっても、社会から犯罪自体をなくすには不十分な力でしかないのだ。

今回スパイダーマンが挑むことになるのはそんな敵、金持ちがさらに得をして弱者が虐げられ続ける腐った社会のシステムそのものだ。今回の敵は人々の苦しみを吸い取って糧にしていて、負の感情を集めるためにクラウドファンディング企業を経営してネットを通じて苦しみの声を集めている。メイおばさんやホビーはその毒牙にかかりだまされていたことがわかるが、単に敵を倒せば万事解決というわけにもいかない。社会を救うためには敵を殴り飛ばすだけでなく、そのあとにお金がなくて困っている貧困層の人々のケアまでしなければならないはずだ。ここが暴力では単純に解決できない問題であって、ヒーローの強さの限界になるからこそスパイダーマンは悩まされることになる。今回オチとしてピーターがとった行動は正直フィクションすぎるというか、現実社会じゃそんなうまいこといかないだろとは思っちゃったけども、それでも暴力が社会にできることの限界を描いたという意味ではすごくいいアプローチだったと思う。

あとは前巻の紹介にも書いた通りTaylorのライティングは結構軽めで、ジョークも挟んでするっと読める雰囲気なんだけど、それが今作のピーター・パーカーの人間性とすごくあってる感じがいい。結構ピンチの時も心の中でジョークを飛ばしたりするピーターの超楽観主義が時には読者を笑わせるエンタメ要素として、またある時はこれまで数多くの悲劇を乗り越えてヒーローを続けてきたスパイダーマンの絶対にあきらめない根性の源として描かれていて、しっかりストーリーでも活かされていた印象。笑いのポイントをカッコよく描くってそうそうできることじゃない、前回に続いて改めてTaylorのライティングの技に感動した。

あとは短編のエピソードも結構入ってるから、ペーパーバックを買わないで気になる短編回だけ買ってもしっかり面白いと思う。前巻も含めればスパイダーバイトという謎の新キャラクターが登場する#6や、闘いで疲れ切ったピーターに変わってメリー・ジェーンが主役の#11がこれにあたるけど、どれもページ数は少ないながらTaylorのキャラクターに対する見方が伝わるいい話だったし、きちんと社会とのつながりを描くというテーマも続いてるから長編の本筋と連続して読んでもそんなに浮くことなく楽しめた。もう短編集のシリーズをやってほしいくらいに完成度が高かったからまたどこかでこういう話を書いてくれないかちょっと期待しておきたい。

シリーズが全十四号と比較的短命に終わってしまっただけにもっと長ければいろんなアイデアがもっと深堀出来たんじゃないかとはどうしても思ってしまうし実際終盤はやっつけ感が否めなかったけども、そこは出版社の事情もあるから一概にクリエイター批判はできない。作品を通してヒーローと街や社会のつながりを探り、題名通り親愛なる隣人としてのスパイダーマンの姿を描くというコンセプトは面白かったし、市民派ヒーローとしての側面をこれでもかと見せてくれた良作だと思う。そんなに大した予備知識もいらないから、市民の味方スパイダーマンの活躍を読みたい人は気軽に手に取ってほしい作品だ。

 

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 2: Hostile Takeovers (Friendly Neighborhood Spider-Man - 2018 (2))

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 2: Hostile Takeovers (Friendly Neighborhood Spider-Man - 2018 (2))

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2020/02/11
  • メディア: ペーパーバック