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Meet the Skrulls

Meet the Skrulls

両親に二人の娘で暮らすワーナー家、父は一流企業スターク・インダストリーズで働き母は議員の秘書を務め、娘たちも学校に通っている彼らはだれが見ても平和に暮らす幸せな家族だった。しかし彼らの正体は変身能力で自在に姿を変えて社会に溶け込んだ宇宙種族スクラル人だった。滅ぼされた母星に代わる新たな帝国を築き上げるため密かに地球侵略を企てる彼らは上官から送られてくる命令を遂行していたが、次女のアリスだけはうまく人間の世界に溶け込めず家族も頭を悩ませていた。スクラルの変身をいかなる場所からでも一瞬で見破る技術を完成させるプロジェクト・ブロッサムなる計画を止めるために奮闘する家族だったが、スクラルを狩る謎の男がアリスの後をつけ始めるのだった。

本作はヒーローが主人公のコミックだと敵側に回ることが多いスクラル人を主人公にして家族の物語。ライターはMarvelを拠点に活躍しているRobbie Thompson、スパイダーマンの若き日を描いたSpideyやスピンオフのSilkを担当していた。アーティストはDoctor Strangeを描いていたNiko Henrichon、スクラルや彼らを追う謎の男の不気味な雰囲気をうまく醸し出す絵がよかった。ライター、アーティストともに初めて触れた人だったが、面白い作品だったからあたりだったと思う。

この作品の主人公は四人。父であるカールと母であるグローリアに加え、長女のマディソンと次女のアリスだ。それぞれ四人が人間社会の一員として、家族の一員として、そしてスクラルとしての違う立場で苦悩していく。アリスは人間社会になじめず、そのせいでスクラルとしてのミッションも遂行することが出来ない。そんな彼女は人間の醜さを受け入れていくことでだんだんと社会に入り込み、強いスクラルとしてのアイデンティティも手に入れていく。逆に人間の中にある憎悪をうまく利用してクラスのイケイケ系にもぐりこんだマディソンは、ミッションの中で偶然触れた人間の好意に惹かれてスクラルとしての自分が不完全になることに不安を感じる。全体も、彼らが共に生きていくのはミッションのための一つの部隊としてなのか、、平和に暮らす家族としてなのかという疑問がだんだんと大きくなる。重複して持った多数のアイデンティティの中で、変身能力を持ち何人にもなれる彼らだからこそ自分を見つけることにより一層苦悩するのだ。

共に生き、時には衝突していったことで彼らは確かに家族の意味を理解していき、より強固な自分自身を手に入れていくことになる。スクラル帝国のためだったミッションはいつしか家族のためとなり、スクラル人としてより自分自身として行動を起こすようになる。物語の黒幕も自らのアイデンティティに悩んだ者であり、それゆえにより強い自我を得るためにスクラル人の抹殺を図るキャラクターだ。ワーナー一家は自分として、家族として生きていくために敵と闘い、その中でさらに確かな絆を得ていく。多くのキャラクターの心情を細かく描きながら全体の家族としての関係もしっかりと描く手腕が素晴らしいが、さらにその流れで物語も進んでいくのがすごく面白い。キャラクターの心情と物語自体の進行って平行線で進むことが多いなと個人的には思うんだけど、この作品はその二つが一直線につながっている。濃厚な心情描写で作り上げた雰囲気を冷まさずに物語を進めていくゆえにすさまじい没入感に浸ることが出来た。

普段のMarvelのコミックではあまり見かけないような雰囲気、テーマの作品なので、一味違うアメコミ体験をしてみたい人には是非お勧めしたい。キャプテン・マーベルの映画で温かいスクラル人家族が好きな人にもピッタリの一冊かな。

 

Meet the Skrulls

Meet the Skrulls

  • 作者:Robbie Thompson
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2019/09/03
  • メディア: ペーパーバック