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Silver Surfer: Black

Silver Surfer: Black Treasury Edition

Guardians of the Galaxyの誌面にてブラック・オーダーに襲撃されてほかのヒーローたちとともにブラックホールへ投げ込まれてしまったシルバーサーファー。時間を超越した闇をさまよった末脱出した先は、現代よりはるか過去の誕生してまだ間もない宇宙だった。何とかたどり着いた惑星に助けを求めたサーファーだったが住人である謎の異星人と戦闘になり彼はさらに闘いを強いられる。苦戦の末何とか勝ち残ったシルバーサーファーの前に次に現れたのは、かつて闇を支配した神ヌルだった。

Guardians of the Galaxyの刊行開始とほぼ同時に発表されたシルバーサーファーのスピンオフということでかなり前から待ってたのがやっとペーパーバックとして出たので紹介。ライターはGuardians of the Galaxyから継続でDonny Catesということで本作もCatesの宇宙系作品群の一角を担っているうえ、もはやCates作品ではおなじみとなったシンビオートの生みの親ヌルも登場する。話はずれるけどCatesって自分の担当キャラを結構他作品にも出張させがちで、Death of the Inhumansで活躍したベータ・レイ・ビルとロックジョーはちゃっかりガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンバーになってるし、コズミック・ゴーストライダーなんてGuardians of the Galaxyはおろかついこの前出たThorにもさらっとお邪魔してた。本作もVenomを読んでなかったらヌルがだれかさっぱりだと思うし全体通して読まないといけないし、クロスオーバーは好きだからうれしいけどあんまりやりすぎたらついてこれる人も減っちゃう気がするから程々にしてほしい。

アーティストはAll-New Ghost Riderで有名になったTradd Moore。なんともサイケデリックで特徴的な絵を描く人だけど、すごくきれいな曲線を何度も描いた結果全体がひっちゃかめっちゃかな雰囲気を作ってる。まさに計算してめちゃくちゃ感を出してるという感じ。ページをめくってまず目に飛び込んでくる情報量に圧倒されて、次に細部をよく見てみるとものすごい描きこみに驚くと一度に二回も楽しめる絵だ。しかもそのクレイジーな感じがぶっ飛んだ概念だらけの宇宙の物語や不定形の影を操るヌルの能力と絶妙にマッチしていて最高。ちょっと自分の語彙ではこのやばさを説明するのは無理だから、ぜひ一度ネットで画像検索でもしてほしい。こういうぶっ飛んだ絵がカラーで見れるからアメコミはやめられないんだよね。

今回自分が読んだのはTreasury Editionという普通のペーパーバックよりでかい大判サイズの本なんだけど、最近Marvelは本作やHistory of the Marvel Universeみたいにこのタイプのペーパーバックしか発売しないときがある。確かにMooreのアートをこのサイズで読めるのは嬉しいんだけど、その分値段はかなり上がるし普通のバージョンも同時に発売してほしかったというのが本音。コミック業界は固定のファン層でしか盛り上がってなくてかなり厳しい状態だという話はたまに聞くけど、最近の値上がりやこういう仕様に単価を上げてどうにか収入を得ようという魂胆が見え見えなところにそれを感じさせられる。

肝心の内容だけど、これが予想を超えて面白い。もちろんライターはDonny Catesだし前評判も調べてたから期待してなかったという話ではなくて、もともとの期待さえはるかに超えてくる傑作だったということ。シルバーサーファーというとよく出てくるテーマは贖罪、もともとギャラクタスの出現の伝令者として数々の惑星が死んでいくのを傍観していたサーファーは死そのものとして恐れられ、彼はギャラクタスを裏切ってヒーローになって以来その罪を償い汚名を返上するために闘ってきた。本作もシルバーサーファーのこの部分がテーマなんだけど、さらにそこでこの作品は贖罪の方法に焦点を当てる。

ギャラクタスのもたらす死は決して理不尽なものではない。彼の存在は宇宙に必要なものでその死と破壊が新たな生命を創造する土台を作っているし、ギャラクタス本人としても悪意を持っているわけではなく飢えを満たすため仕方なくやっている。あくまで宇宙のバランスを保つための行為だからこそ、いくら殺戮行為だとしてもこの理論を非難することはそう簡単ではない。むしろこの仕組みが存在することは紛れもない事実であり、そこを否定することはこの世界で生きていく以上無理だろう。

数々の死を傍観した彼自身の過去やギャラクタスのもたらす殺戮は作中で何度も闇と呼ばれるが、シルバーサーファーはたどり着いた過去の世界でこの闇を止めるために動くことになる。そこでたどり着いたのが、まだ成長中で完全な力を手に入れていないギャラクタス本人を殺すことだった。確かにギャラクタスが死ねばこれから引き起こされる虐殺もサーファー自身の人生が歪むこともない。しかし、一人の死という闇をもってして光を守る行為はギャラクタスの主張していたバランスをとるための理論と何ら変わりはないのだ。そのことに気づかされたサーファーは、宇宙のサイクルの中で自身が闇に身を堕とすのではなく、光そのものになろうとする。ギャラクタスの本質に限りなく近づいたうえで、それに反するためのある意味究極的ともいえるような答えを提示するこの流れがさすがのCatesの発想力だと思う。

さらにこのサーファーと闇との対決を盛り上げるのが冒頭で少し触れたヌルの存在だ。紛れもなく闇そのものをつかさどる神である彼は本作でサーファーが闘わなければならない相手としてまさに完璧。光になるためにサーファーが自身の中の闇の象徴としてヌルと向き合う姿は本作のテーマにすごくあっているし、闘いの中でサーファーが導く結論にもすごく説得力があった。

相変わらずキャラクターの本質をうまくとらえながら圧倒的な発想力で普通じゃ思いつかないロジックを展開するCatesのライティングと、奇抜ながら綿密で常識を超えた宇宙の世界と見事にマッチしたMooreのアートと見どころ盛りだくさん、ぶっ飛び具合と繊細さが上手く合わさった傑作だ。

 

Silver Surfer: Black Treasury Edition

Silver Surfer: Black Treasury Edition

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2019/12/24
  • メディア: ペーパーバック