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Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 4: End of Hell

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 4: End Of Hell (Daredevil (2019-)) (English Edition)

ヘルズ・キッチンをむしばむ新たな脅威とこれまでとは違う方法で闘うことを決めたマット・マードックしかしそんな彼の努力とは裏腹に、街を舞台にしたギャングたちの争いはエスカレートしていく。さらに世界で最も裕福な一家、ストロムウィン家の兄妹もヘルズ・キッチン買収計画に乗り出し、市民たちは危機にさらされていく。

相も変わらずめちゃくちゃ面白いChip ZdarskyのDaredevil。シリーズ開始からいきなりマットがデアデビルをやめるという出だしから始まり、これまでマットがひたすら苦悩し続けるという重い展開だったけども、この巻でやっと物語がひと段落した気がする。このシリーズはあまり派手な展開はせずにひたすらマット自身の内面の物語を中心にして進んできたと思うんだけど、いよいよこれまでの積み重ねが爆発して内容的にも絵的にもかなりぶっ飛ばしたクライマックスといった感じのシーンが続いていくからめちゃくちゃテンションが上がった。

本シリーズに関して最近すごく気になったのは、最近発表された#26の情報。年末から始まるVenom関連のイベント、King in Blackに本作もタイインとしてかかわっていくことになるらしい。まずこのシリーズって今までかなり独特な世界観を気づいているから他タイトルとのクロスオーバーとかは避けていくのかと勝手に思ってたし、何より今自分が読んでいる中でも一、二を争うほど面白いタイトルのVenomとDaredevilが交わるっていうんだからすごくうれしいし楽しみ。毎度本当にいい意味で予想を裏切ってくれるタイトルだ。

前巻で市民を守る新しい道を進んだマットだけど、本作の最初で今のマットの闘い方がより詳しく描かれるのがまず最初のポイント。以前のように暴力で犯罪者と闘うのではなく、洞察と隠密行動で犯罪の根源そのもの、犯罪者が生まれるような社会そのものを相手に闘うという新しい信念がより伝わってくる。以前より相手の動きに集中し、必要最低限の暴力で相手に対応しようとする戦闘シーンや、悪者をぶちのめすことがゴールだった以前と違い、財政や社会の圧力を駆使して敵に立ち向かうというような描写がより丁寧に描かれていた気がする。物語としてはもちろんスパイ映画みたいなアクションもかっこいいし、本作のメインのパートではないけどかなり好きな導入だった。

この巻の一番のテーマは、マットが捨てたデアデビルとは何だったのかということ。法を尊重しながらも暴力を使って闘うというグレーゾーンで活動してきたデアデビルは、その行動が法そのものや神の定めたルールに触れてしまった時点でマットにとって過ちとなった。今まではマットの視点でそんな法や神の教えと向き合う葛藤が描かれてきたけど、同時に街がデアデビルを確実に必要としていて、しまいには一般市民がついにデアデビルのコスチュームをまとうような状況も並行して見せられていた。本作ではついにその二つの視点がつながって、主観的にも客観的にもデアデビルという存在の意味が再定義されることになる。

デアデビルに限らず、派手なコスチュームを着たスーパーヒーローは市民にとって実際の存在より強く、アイコンとして存在しているんだと思う。とりわけデアデビルってヘルズ・キッチン専属だからご当地ヒーロー的な要素もあるんじゃないかな。単に一人の人物としてだけではなく、デアデビルというアイコンは街にとって良心の象徴のような意味を持っていたんだということが市民の行動によって読者に伝えられてきたのが今までの物語だった。

とりわけデアデビルのマスクをかぶる市民という構図はそれを象徴しているんじゃないかな。一人では闘うことが出来ない市民がデアデビルに変身して一歩踏み出すというのは市民がヒーローのアイコンから勇気をもらうという描写はもちろん、町全体でデアデビルの影響が広がっていくというのも面白いと思うし、コール刑事の視点からこの流れがどこか不気味にみられているのも印象に残る。明るいヒーローの象徴というだけでなく、デアデビルの「デビル」の部分、どこか恐ろしく街にとりつく呪いのような執念が頭をよぎる描写だけど、マットの視点でデアデビルの闇が描かれてきたからこそ余計にそんな暗さを感じるのかもしれない。

そしていよいよ本作で、マット自身がデアデビルという呪いを目の当たりにする。たとえ自身がマスクを脱いでも、別の誰かが執念を受け継いで闘いの中傷ついていく。デアデビルとはもうマット自身ではなく、より大きな存在であることを初めて彼が理解するのだ。あらかじめマットが再びコスチュームをまとうことが予告されていた本作だけど、それは彼の闘う決意ではなく、過ちの償いとして自身が「デビル」の呪いを受け継ぐという自己犠牲なのだ。

いよいよデアデビルとして復活したマット。彼がこれまで目指してきた新しい闘い方とデアデビルの存在は共存できるのかなと考えてしまうけど、何より気になるのはラストの衝撃の一言。グレーゾーンにいながら法のために闘うというデアデビルの行動原理を考えたらすごくしっくりくる展開ではあるけど、今後物語がどうなってしまうのかとにかく楽しみ。説明不足で全体の半分くらいしか面白さに触れられてないけど、本作は相変わらずめちゃくちゃ面白いタイトルまだ四巻で追いつけるから、気になる人はぜひ読んでみてほしい。間違いなく自分の今年ベストだ。