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History of the Marvel Universe

History of the Marvel Universe Treasury Edition

遠い未来、消滅の時が近づいているマーベル・ユニバースに残った二つの存在であるフランクリン・リチャーズとギャラクタスは、新たに生まれる世界に向けて準備をしていた。新たな世界へ旅立つ唯一の人間となるフランクリンは同じように過去の世界から一人マーベル・ユニバースへとたどり着いたギャラクタスと語り合うが、フランクリンが最後に今までこのユニバースで起きたすべての出来事を知りたいと尋ねると、ギャラクタスは世界の創生からヒーローたちの時代までの歴史を語りだした。

Marvelの八十周年を記念して今までのマーベル・ユニバースの歴史をその誕生からまとめるという記念作品がHistory of the Marvel Universe。そのライターを務めるのはMarvelでも数々の作品を手掛けたベテランMark Waid、当ブログで紹介した作品ではAvengers: No Surrenderが有名かな。アーティストはJavier Rodriguezで、どこかクラシックなコミックの雰囲気も現代アートのような不思議さも感じる独特さが魅力だ。本作ではコマ割りを駆使して多くの挑戦的な試みをしているけど、どれもすごくおしゃれで面白かった。

ユニバースの歴史をまとめるといっても、アメコミの歴史なんていろんなライターが面白そうなことをひっちゃかめっちゃかに詰め込んだものだから整合性なんてものはあったもんじゃない。そんな各地に散らばった設定を集めてまとめ上げて年表通りに整理したWaidの努力には脱帽だ。さらに巻末にはそれぞれの設定やキャラクターが実際に登場したコミックのコマや詳しい解説が載ってるから史料としても使える一冊になっている。

まず特筆して伝えたいのはやっぱり絵の美しさ。コミックの性質上全体を通してずっと続く物語があるわけではないので逆にすごく自由にコマ割りも構図も使ってアートが完成している。自分は全く絵を描くのはだめだから単に素人の推測なんだけど、アーティスト側としても描いていてすごく楽しいんじゃないかな。物語に沿う制約がない自由さからか、最初のざっとした説明に書いた通りいろんな視覚的に面白い工夫や仕掛けも取り入れていて、Rodriguezのちょっと不思議な現代アートっぽい絵柄をさらに面白くしている。

お気に入りのページをいくつか挙げると、まず#2のスパイダーマンの初登場のシーン。ドクター・オクトパスと闘うスパイダーマンをダイナミックに描きながら、彼のコスチュームの蜘蛛糸模様の隙間がそれぞれコマになっていてそれぞれにピーターがスパイダーマンとなった経緯のオリジンが描かれているページだ。まずスパイダーマンをカッコよく見せる、そのうえで彼の誕生の歴史をビジュアルで説明という、単なる歴史年表では終わらない面白さが込められている。このコミックで一番のお気に入りであることはもちろん、今年読んだコミック全体でも一番好きなページかもしれない。

あとは#5でギャラクタスがヒーロー同士の闘いを描いた名作Civil Warのことを語るシーン。見開きに大きくアイアンマンとキャプテン・アメリカの影があり、その中にそれぞれの陣営のヒーローが描かれている。これだけだと単によくできたポスターで終わっちゃうんだけど、二つの勢力の板挟みになったスパイダーマンは真ん中でうろたえていたり、ギャラクタスの説明のモノローグを追って左から右に読み進めていくとゴライアスの死やラストのキャップの投降など、ストーリーの中の重要シーンが順番に影の中に描かれていくことに気づいたりと、おしゃれさで遊びながらもきちんとわかりやすく物語自体を説明することは捨てていない。この説明のわかりやすさは最大限残しながら新鮮で面白い視覚表現で遊ぶバランスのとり方がこの作品最大の魅力だろう。

アートの話をしたら次は物語に飛ぶのが筋なんだけれど、今作の物語はちょっと特殊だ。というのも前述のとおり、マーベル・ユニバースの歴史をまとめるという性質上このコミックにはそれ自体の物語というのはない。しいて言うなら、今まで八十年間で描かれてきた一つの宇宙の誕生から終焉までの大きな流れが今作の物語だろう。その始まりから終わりまでをギャラクタスが語り読者とフランクリンが歴史を追体験した後、宇宙そのものの終わりと同時にギャラクタスは栄光の時代に生きた英雄たちの遺志を継ぐようフランクリンに告げるのだ。ラストは壮大なアートも相まってマーベル・ユニバースそのものをまとめ上げる素晴らしい終わりになっているからぜひ実際に読んでみてほしい。自分はこれで初めてコミックを読んで鳥肌が立った。

あと注目したいのは最後にちらっと明かされた、今後のマーベル・ユニバースに起こるであろう事件の数々。Venomで登場したヌルの再登場の予感がしたりIncoming!で登場するであろう剣を持った半血の人物なんかも気になるけど、個人的にはトニー・スタークとエマ・フロストの結婚が超気になった。いったい何企んでるんだmarvelは。

前回の記事で今年一番面白かった現行誌はGuardians of the Galaxyだって書いちゃったけど、最後まで読んでやっぱり今作に変更したい。毎ページ息をのむようなアートに加えて壮大な宇宙の歴史をまとめ上げる最後はまさに傑作と呼ぶにふさわしい作品だ。

 

History of the Marvel Universe Treasury Edition

History of the Marvel Universe Treasury Edition

  • 作者:Mark Waid
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2020/02/25
  • メディア: ペーパーバック