Black Bolt Vol. 2: Home Free
アブゾービングマンの犠牲をもって看守を倒し、監獄から脱出したブラックボルト一行。彼の養子となった宇宙人の少女ブリンキーとともに故郷である地球へと帰還するブラックボルトだったが、この時地球はSecret Empireのヒドラの政府乗っ取りの直後であり、インヒューマンズのコミュニティは壊滅的な打撃を受けていた。王としての役目を最も必要とされていた時期に何もできなかった失敗が再度彼を苦しめる中ブラックボルトはアブゾービングマンの妻タイタニアに夫の死を伝えに向かうが、彼を待っていたのは王の所業に恨みを持つインヒューマン、ラッシュだった。
前回に引き続きBlack Bolt誌の続きで、完結編でもある第二巻の紹介。様々なところで高評価を得ていて実際読んでみてもかなり面白いのに結構短命でシリーズが終わっちゃったのは残念だけど、すごくきれいに全体をまとめていて完璧な終わり方をしている。
前巻から引き続き本作でもまずブラックボルトが犯してきた罪に焦点が当たる。Vol. 1では監獄という場所がそれらを象徴していたけど、今作では息子からの拒絶や王政の転覆を狙うラッシュの襲撃などもっと直接的な形で彼を襲ってきて、さらにブラックボルトはどこかそれらを受け入れてしまっているように反撃をすることをしない。看守との闘いで確かに彼は脱獄という形で自身の後悔との闘いに区切りはつけたものの、実際に個々の問題を解決することはそれとはまた別の話、ブラックボルトはここにきて改めて後悔から抜け出す道を探すことになる。
そんなときに満を持して登場するのがかつての王妃であり、ブラックボルトの最愛の人であるメデューサだ。今まで何度もブラックボルトの生きる希望として語られてきた彼女がいよいよピンチというタイミングで彼女を出してくるのは王道なプロットのように思えるけど、面白いのは彼女はあくまで意識でブラックボルトとつながって脳内に登場するだけで、しかも彼女自身も心身共に疲れ果てボロボロというところだ。メデューサはブラックボルトを助けるどころかアドバイスさえできない状態で、二人は寄り添ってどうにか立ち上がり、それでも精神世界の砂漠を歩き続ける。ブラックボルトが求めるだけでなく、メデューサにとっても彼が必要だということ、ボロボロでも前進するしかないというメッセージを得てやっと彼はラッシュに反撃できるようになる。現実と精神世界が入り組む複雑な進行の仕方をしながらブラックボルトの成長を順々に描く物語の進め方がバランスよく、わかりやすいのに話が単調になることもないのが素晴らしいライティングだ。
第二のテーマはブラックボルトの内なる監獄。物語の終盤でブラックボルトの心の世界が映し出されるが、そこで看守の姿をしていたのは彼の実の父だった。周りから隔離されて父親からも実験台として扱われた彼の過去が明らかになり、そこに看守の像が重なって初めて今までの監獄が彼自身の過去のメタファーであったことがわかる。ここにきてのすっきり具合というか、今まで読んできたものが最後にまた持ち上げられる感じはすごく面白かったし、そこから脱出する鍵である孤独からの解放というのも前巻でブラックボルトと仲間の信頼関係が深く描かれていたことを考えたらすごく納得だ。監獄という舞台を強調してきた本作だけど、そこをうまく扱いながらこの物語はもちろんブラックボルトというキャラクターの人生さえまとめてしまうなんとも秀逸な終わり方だと思う。
物語の本筋はこれで終わりなんだけど、それとは別で気に入ったシーンがアブゾービングマンの葬儀のシーン。ヴィラン仲間はもちろんキャップやソーも登場して弔いの言葉を捧げていくのは本当に名シーンだと思う。かつての敵が葬儀に出るっていうだけでアツいシーンなんだけど、悪行に手を出した後悔を引きづっていたカールが最後にヒーローとして認められる流れがすごく心に来た。しばらくしたらまたアブゾービングマンもヴィランに戻っちゃうんだけど、またこうやってヒーローの仲間として闘うところも見てみたい。
最後は少し脱線したけど、シリーズ通して本作はノリも暗くなくて読みやすいのにぎゅっと中身が詰まった濃い作品だった。アイズナー賞受賞の肩書にも全く曇りがない傑作なのでいろんな人におすすめしたいし、自分もすごく楽しめたからまたAhmed作品は追っていきたい。
Black Bolt Vol. 2: Home Free (Black Bolt (2017-2018)) (English Edition)
- 作者:Saladin Ahmed
- 出版社/メーカー: Marvel
- 発売日: 2018/06/06
- メディア: Kindle版