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Black Bolt Vol. 1: Hard Time

Black Bolt Vol. 1: Hard Time

超人種族インヒューマンズの王ブラックボルトは目覚めると口枷によって能力を封じられ監獄の中で鎖につながれていた。響き渡る謎の声に覚えのない罪への贖罪を求められる彼は鎖を砕き脱出するが、そのあまりの拘束の緩さにすぐに何者かに遊ばれていることに気づく。牢獄内を進む彼はごろつきたちと出会い争いになるが、王として闘いの経験を積んだ彼はすぐにそこを突破し、ごろつきたちに看守の居場所を問いただす。こうしてかつての偉大な王は黒幕に迫るが、事態はそう簡単ではなかった。

最近MarvelでMagnificent Ms. MarvelやMiles Morales: Spider-Manなど人気キャラクターのタイトルを手掛ける新鋭ライターSaladin Ahmedと鮮やかな色彩と独特のデザインや豊かな表情が魅力のアートを描くChristian Wardのコンビが手掛けるブラックボルト初の個人誌第一巻。なんと本作はコミックのアカデミー賞とも呼ばれるアイズナー賞を受賞した作品らしく、少し前に読んだDeath of the Inhumansの影響でちょうどインヒューマンズのコミックを探していた時に手に取ってみた作品だ。Ahmed作品で唯一自分が読んだものは当ブログで最初に紹介した作品でもあるAvengers: No SurrenderのスピンオフであるQuicksilver: No Surrenderだけど、これまた面白かった良作でいつか紹介しようと思っていたんだけど今まで忘れていたりする。本シリーズ二冊の紹介が終わったらまたそっちも読み返して記事を書くかも。

Ahmedのライティングの面白いところは最後の最後まで何が起きるかわからない緊張感だと思う。物語はよく起承転結で成り立ってるなんて言われるけれど、彼はとにかくそのうちの転の部分を明かすのが遅い。大体の物語では中盤までで転までのセッティングの下準備を済ませて後半はクライマックスの演出で盛り上げていくと思うけど、Ahmed作品では本当に最後の最後まで結構重要な最後の仕掛けが明かされないところが何よりの面白さだ。変にこういうことをすると終盤まで話の地盤が固まらないせいでクライマックスの盛り上げに使うページ数が足りなくなっていまいちカタルシスを感じられなかったりするけど、彼は淡々と続くモノローグやナレーションでうまく終盤も盛り上げていくのが上手い。やっぱり読んでいてハラハラするかどうかというのはヒーローものや冒険もののコミックでは面白さに直接かかわる大きな要因だけど、Ahmedの作品はそこをきっちり抑えているから期待に応えてくれる嬉しさがあると思う。

次にChristian Wardの絵について。彼の描いたコミックは本作が初見だったけど本当に美しい。まず最初に目につくのは鮮やかなカラーリングと、機械的ながらどこか幻想的なデザインの数々だ。どこかJack Kirbyの絵を雰囲気を感じる大量のコードに覆われた謎の機械やトリックアートを使った不思議な構成、さらにコマを揺らしたり壊したりしながら空気感を巧みに演出する様はものすごく見ごたえがあるし、ページの一枚を切り取って美術館に展示しても誰もコミックの絵だとは思わないであろうようななかなか他では見れないような特徴的な雰囲気が楽しめる。あとはWardはキャラクターの表情を描くのがすごくうまい。結構堅物なキャラクターっていうイメージが強いブラックボルトだけど、Wardの描く彼はすごく表情豊かでコミカルな雰囲気さえ感じられる。前述のカラフルさと相まって色合いも感情的にもすごく鮮やかなページはほかではそうみられないだろう。

冒頭からいきなりブラックボルトが投獄されているという突飛な始まり方をする本作だけど、この監獄という舞台がすごくいい仕事をしていると思う。道中ブラックボルトは地球人のヴィランやスクラル人の海賊など様々なごろつきと出会いともに脱走を企てるが、最初彼は仲間であるはずの彼らをどこか見下している。もちろんそれぞれが生きてきた世界では一方は王、方やごろつきと立場が大きく異なっていたはずだ。しかし監獄の中では彼らは同じ囚人に過ぎない。ブラックボルトは彼らと同じ場所で生きていく中でだんだんと元の生活の差を忘れ、新たな仲間たちに確かな友情を感じていく。最後にはインヒューマンズの家族と同じ、時にはそれ以上に仲間たちを信じていく様子がすごく温かみがあってすごく好きだった。

さらには監獄というだけあって、囚人である彼らは謎の看守に自らの罪の懺悔を求められる。それはブラックボルトにとっては王としての失敗や家族関係のもつれであり、彼と行動を共にするアブゾービングマンにとっては亡き母の期待を裏切って悪人となった人生全体だったりするが、監獄の中で囚人たちは自らが残してきた後悔と立ち向かい克服していかなければならない。自らの罪悪感との闘いと脱出のための看守との闘いが上手く重なるからこそ、彼らの闘いの意義がはっきりし燃える展開になっていくのだ。この監獄が何のメタファーだったのかは次巻で少し考えさせられることになるのだが、まだそこまで考えなくてもこの物語の大きなテーマとして多くの意味を持つ舞台になっている。

アート、物語のどちらの視点で見ても魅力的でアイズナー賞を取ったことも納得だし、どこをとっても美しさを感じる名作。逆にこのシリーズが二冊で終わっちゃったのは結構悲しいくらい。適度に明るくて胃もたれすることはないけど読後にがっしり感情の波が来る作品なので、アメコミ好きな誰にでもおすすめ。

 

Black Bolt Vol. 1: Hard Time

Black Bolt Vol. 1: Hard Time

  • 作者:Saladin Ahmed
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2017/12/19
  • メディア: ペーパーバック