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Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 1: Secrets and Rumors

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 1

ピーター・パーカー、スパイダーマンは日々ヒーローとしてニューヨークで人助けをする毎日を送っていた。ある日手荷物を運ぶのを手伝った老年の女性に同じデパートに住む女性の話を聞いてほしいと頼まれたピーターは彼女に会いに行く。レイラニというその女性と話した後ピーターは昼食を持って再度彼女の部屋を訪れるが、そのときすでにレイラニの部屋は怪しい男たちに荒らされており、ピーターも殴られて気絶してしまう。気づいたときにはレイラニは連れ去られていたが、彼女が隠したあるものが洗濯籠に残されていた。

Marvelでは死んだローガンの跡を継いでX-23ことローラ・キニーがウルヴァリンとして活躍するAll-New Wolverine、DCでは同名ゲームのコミカライズ版であるInjusticeやゾンビもののDCeasedなどで一躍有名になった今話題の売れっ子ライターTom Taylorによるスパイダーマンの個人誌。Amaizing Spider-Manはもちろん、Peter Parker: The Spectacular Spider-Manやスター・ウォーズの監督でおなじみのJ. J. Abramsが書いているSpider-Manなど、タイトルを飾るシリーズが最近だけでこんなにあるというのが現在のスパイダーマン人気を物語っている気がする。Taylorの作品を読むのはこれが初めてだけど、本作に関して言えば快活なノリで読みやすい印象を受けた。Injusticeなんかはかなり鬱だって聞くからいろんな作品を読んでいきたい。

本作はFriendly Neighborhoodの題の通り、スパイダーマンと近隣の人々やニューヨークという街の関係性が強く描かれる。普段のヒーロー生活の中で軽い談話を交わしたりする人々も、ピーター・パーカーとして近所でともに生きている人々も、その全員がスパイダーマンの闘う理由であり、彼の味方でもある。陽気な会話の中で確かな絆がそこに生まれて街を支える力となることがよくわかる作品だ。

#1から#4までは一連の連続した物語で、スパイダーマンたちと地下世界のニューヨーク、アンダーヨークからの侵略者との闘いが描かれる。スパイダーマンが日常のヒーロー生活の中で人々を助けたり、ふとした縁から協力者を得たりする様子とともに、冒頭に書いた女性の誘拐事件や謎の双子、さらにただのおばあさんだとおもっていた女性がルーマーと名乗る謎のヒーローだったことが判明し、突然アンダーヨークの存在が明かされるなどの展開が一気に起こる。正直読んでいる側としても怒涛の謎な展開ラッシュで頭がこんがらがっていたけど、これは決してネタの詰め込みすぎやライターの説明能力の低さによるものではない。なぜなら当のピーター本人も状況が半分わかって半分わからないような状況で闘っているからだ。ここで困惑するスパイダーマンの様子をコミカルに描くことで明るいトーンは保ちながら、読者を自分と同じ状況に陥っているスパイダーマンと重ねさせて話の流れにのめりこませていく。あえてわかりにくい話をすることで物語を盛り上げる手法がすごく面白かったし、Taylorのライターとしての力を味わった気がする。これなら人気作家の仲間入りも当然だ。

終盤に差し掛かりアンダーヨークの支配者が軍隊を連れて地上世界に現れ、スパイダーマンは彼らに挑む。どうも地上世界とアンダーヨークには昔から不可侵条約みたいなものがあったらしいことに加えて、ルーマーの過去やレイラニが地上に来た理由など説明されてないことはたくさんあるが、この際スパイダーマンからしたらそんなことはどうでもよく、ただ自分や近所の知り合いが生きるニューヨークの街を守るために彼は立ち上がる。そして同時に、彼の周りの市民たちも自分たちの街とそこに必要なスパイダーマンを守るために各々の武器を持つ。彼らは敵がどんな理由を持っていようと関係なく、とにかく街のために闘おうとしているのだ。ここにきてあえて細かい理屈を説明していなかったからこそ、読者と同じように状況を知らないピーターやニューヨーク市民の結束を見て、彼らの闘う理由を知ることが出来る。ここまで話の運びがきれいな物語はなかなかあるものじゃない、まさに傑作だ。

ここで終わってもいいくらい#4までの話は完成度が高いんだけど、本作で一番紹介したいのはそれぞれ一話完結になっている#5と#6のすばらしさだ。#5は健康診断でがんの疑いが出てしまったメイおばさんが病気のことをピーターに告白する回だ。ショックで冷静になれない中スパイダーマンとしての活動に逃げ出して病気のことを忘れようとするピーターは、街で同じように差し迫る問題から逃げ出して犯罪に手を染めてしまった少年と出会う。彼を助けていくうちに訪れたサンクタム・サンクトラムでドクター・ストレンジと話したピーターはおばさんの検査に付き合う覚悟を決める。

この話の面白いところはスパイダーマンが犯罪者であるはずの少年の逃亡を手伝ってしまうことだ。もちろんスーパーヒーローとしてはどんな事情があろうと犯罪者にはしかるべき罰を受けさせるべきだし、見えないところでジェイムソンがこういう行動に対して文句をぶつけているところはすぐに想像できる。それでもあえてピーターがこの行動をとったのはヒーローとしてではなく、親愛なる隣人としてなのだろう。スパイダーマンが正義の味方であることは間違いない。しかしそれ以上に彼は市民の気持ちに寄り添う存在であり、それが彼が愛される所以でもある。さらに、もちろんピーターが市民を助けることもあるが、この物語では少年との出会いが逆にピーターに進むべき道を提示してくれたかのようにも思える。ピーターは人間の能力を超越したヒーローであることには間違いないが、それでも中身は一般市民と何も変わらないのだ。だから彼は理屈を無視した感情論で人々の助けになることもできれば、同じ市民として他人から影響を受けて成長することもできる。これこそがアメイジングである前に親愛なる隣人であるヒーロー、スパイダーマンの核なんじゃないかと思う。

#6は突然誌面に現れた新ヒーロー、スパイダーバイトとスパイダーマンがともに闘う物語。といってもそれは冒頭だけで、実はスパイダーバイトは難病で入院している少年で、今までの話はピーターが彼のスパイダーマンになりたいという願いをかなえるために協力していたごっこ遊びの中の物語だったことが途中でわかる。遊びの中でスパイダーバイトは襲い来るヴィランたちからニューヨークに必要なあるものが入った箱を守るために闘うが、戦闘の後に箱の中身がスパイダーマンのおもちゃのフィギュアだったことがわかる。スパイダーマンは単に街を守る戦力として必要とされているだけではなく、この少年の場合のように生きる希望そのものとして必要とされているのだ。しかもこれは空想の世界の話に限ったことではないと自分は思う。もちろん現実の世界にはスーパーヒーローもヴィランもいない。それでも自分を含めたファンがコミックを読んだり映画を観たりすることに情熱を注いでいるのは、誌面や銀幕で活躍する彼らの姿が我々の生活を豊かにしてくれるからに他ならないんじゃないだろうか。そういう意味ではこの物語に出てくる少年と読者は同じ立場でスパイダーマンというシンボルを見上げていると思う。ここまで読んで、やっぱりTom Taylorは作中のキャラクターと読者の目線をうまく合わせて感情移住させるのがすごくうまいライターだなと改めて思う。本作前半の話といいこの話といい、まさに彼のプロの手腕がよく感じられる。

この物語のラストは二度と目覚めないかもしれない恐怖からベッドに入りたくないと怯える少年に対して、スパイダーマンが彼を外に連れ出して一緒に摩天楼をスイングするページで終わる。末期の病気を患った少年を病院の外に連れ出したりすることが果たして正しいかは置いておいて、ここでもピーターは少年に一番寄り添った行動をとったと思う。ひとつ前の話と合わせて、理屈で正しいかよりも感情論で人のためになることをするスパイダーマンの親愛なる隣人としての行動原理も垣間見ることが出来るんじゃないか。これまた短い話でありながら、スパイダーマンの様々な見方を詰め込んだ名作、個人的には一番好きなエピソードになった。

紹介したいことが多すぎてやたらと長くなっちゃったけど、とにかくめちゃくちゃ面白い作品ということだけでも伝われば幸いかな。数あるスパイダーマンのコミックでも間違いなくトップレベルに面白くて、かつ快活なノリで読みやすい一冊になっているから初心者オタク関係なくスパイダーマンが読みたいすべての人に自信をもっておすすめしたい。

 

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 1

Friendly Neighborhood Spider-Man Vol. 1

  • 作者:Tom Taylor
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2019/07/23
  • メディア: ペーパーバック