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Death of the Inhumans

Death Of The Inhumans (Death Of The Inhumans (2018) Book 1) (English Edition)

かつて宇宙の列強種族であるクリーが地球人を改造したことで生まれた超人種族インヒューマンズ。長い年月の果てにそれぞれの文明を築き上げてきた彼らは部族に属するものや集団に縛られずに生きるものなど、宇宙の各地でさまざまな生き方をしていた。しかし、単独で生きていたインヒューマンズたちがかつての創造主であるクリーによって惨殺される事件が発生する。同胞の死を嘆くインヒューマンズの王ブラックボルトはクリーが死体に刻んだメッセージ、"Join or die."を目にし来るべき脅威に備え部族の長を集めた議会を招集するも、彼が到着したとき目にしたのはすでに殺められた族長たちの姿だった。

当ブログで紹介するのももう何度目になるかわからない天才ライターDonny Catesが手掛けたイベント誌が本作。かなり物騒な題名に加えてMarvelの映画化権のごたごたで優遇されたり冷遇されたりといった噂が絶えないインヒューマンズなだけに結構叩かれたみたいだけど、その話もどこまで本当かわからないし内容もキャラクターを活かしてたから言われすぎなんじゃないかしら。逆にCatesの大ファンとしてはめちゃくちゃに面白い一冊だった。

本作の話に入る前に、Donny Cates作品全体の面白さについて書いていきたいと思う。彼のライティングの面白さは読者を急に敷かれたレールの外に突き放すサプライズと、その驚きをさらに昇華させる巧みな演出力だ。前者は単調になりがちな説明や回想などでよく使われ、読者を飽きさせないことに一役買っている。特にCatesが上手いのは起承転結の起と結を先に説明して、読者がなんとなく間に何があったか想像したところで予想外の承と転を投げてくる技。単に時系列で説明されるのとは比べ物にならないくらいのインパクトを多くの作品で残しているが、個人的にはVenom誌の中のThe Abyss編での回想シーンでのどんでん返しが最高だった。

後者の演出力に関しては小さな会話からオチまで、ありとあらゆるシーンでCatesの技量をうかがえる。Thanos Winsでは題名にもなった圧倒的なインパクトのあるフレーズでサノスの強さを誇張し、Guardians of the Galaxyではセリフが次のページのタイトルにそのままつながるという大胆な演出で新チーム結成の興奮を最高潮に高めた。Catesのライティングが絵で見せるというよりモノローグやセリフなどの文章に重きを置いたスタイルなだけあり、彼の技が活かされる機会も多くて読む文が多いときも言葉選びの一つ一つを楽しめる。特に身近に英語に触れた経験もなく辞書をお供に割と必死でページをめくっている自分にとっては英文を楽しんで読めるライターの作品はストレスもなく物語を楽しめるからすごくありがたい。

本作の話に戻ると、この作品はDonny CatesのDonny Catesらしさというか、前述した彼の作品の持つ属性がこれでもかと活かされた本だと思う。相変わらず怪しげなトーンのモノローグが状況を説明していきながら、題名に嘘のないような暴力的でショッキングなシーンが続いていく。Death of なんとかなんてコミックはもはや何番煎じかわからないくらいだが、それでも巧みな演出力でそんな陳腐な突っ込みを忘れさせるほどの殺伐とした雰囲気を作り上げるのが見事だ。本作で最高だった場面は中盤敵につかまって声帯を摘出されもう声が出せないと思われていたブラックボルトが、獄中でささやき声で看守を殺して脱出するシーン。ブラックボルトの声がだんだん大きくなって看守が苦しみだすと同時に、それまで整然と並べられていたコマが崩れだしそれぞれのコマの壁もボロボロになっていく演出に思わずうならされてしまった。前述のとおり結構文章での凝った演出が多いCates作品の中でコマ割りを活かした演出に踏み切ったところに逆に新鮮味を感じたのも大きかったかもしれないが、読者のテンションを上げる彼の技に改めて脱帽だ。

ただ、話のテンポに比べてラストの展開が急ぎ足すぎたという感覚は否めない。敵の正体とインヒューマンズの死の真相に関する真相が明かされたところまではよかったのだが、そこから最後の展開に行くまでにもうちょっと間があった方がよかったんじゃないかとは思う。これに関しては最初に書いたCatesの敷かれたレールから急に読み手を突き放すようなライティングの様式の負の側面ともいえる。この技法ってうまくいけば一気に作品の衝撃度を高められるけど、逆に言えば話が急に分かりずらくなる可能性も秘めてるわけで。こういう意味でも本作はすごくDonny Catesらしいのかなとも思う。

とにかく今推していきたい話題のライターDonny Cates、彼の真髄にどっぷりつかってみたいという方はぜひ。

 

Death Of The Inhumans (Death Of The Inhumans (2018) Book 1) (English Edition)

Death Of The Inhumans (Death Of The Inhumans (2018) Book 1) (English Edition)

  • 作者:Donny Cates
  • 出版社/メーカー: Marvel
  • 発売日: 2019/01/02
  • メディア: Kindle