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Thanos by Donny Cates

Thanos by Donny Cates (Thanos (2016-2018)) (English Edition)

戦闘種族チタウリの母星を征服し新たな王となったサノスの前に、タイム・ストーンの力で未来から来た謎のゴーストライダーが現れる。彼によって無理やり未来へ連れてこられたサノスは、ゴーストライダーの主であり自分を呼んだよう本人である未来のサノスと対峙。全宇宙の生命を滅ぼし死そのものの化身である女神デスへと捧げる手助けをしてくれという未来の自分の要求を呑みサノスは協力することにするが、未来のサノスには裏の目的があった。

当ブログでも何度も紹介している新鋭作家、Donny CatesがMarvelで最初に手掛けた作品の一つが本作に収録されているThanos Wins。そして今回紹介する合本にはもう一作、Thanos誌で人気を博した新ゴーストライダーが主人公のCosmic Ghost Riderが収録されてます。本作から現在のGuardians of the Galaxyまでを一連の物語と呼んでいるので、Cates作品を読むなら外せない一冊になっている。

まずは前半のThanos Winsについて。本作の魅力はCatesが大得意などこか怪しげで読者を煽っていくようなナレーションと、とにかく先が一切予想できない展開だ。冒頭から題名通り"Thanos wins."のフレーズが語られ、これでもかとサノスの絶対強者たる力が誇示されていく。彼の強さを表すための野暮な比喩や適当な対戦相手をもってくるわけでもなく、決して若干の推量が加わった"Thanos will win."ではない。確固たる普遍の事実を表すための現在形での"Thanos wins."という言葉の下、すでに彼によって破壊されたチタウリの惑星の残骸とそれに関して特に気にさえしないサノスが描かれる。こんな圧倒的なせりふ回しで読者の心をがっちりつかむのはもちろん、この荘厳なムードの場面にいきなりおちゃらけた雰囲気のゴーストライダーが乱入してサノスを連れ去っていくハチャメチャさもDonny Cates作品の面白さだ。

なにより一番驚かされるのはオチ。すべての生命を殺し遂に悲願を達成した未来のサノスが唯一倒せなかった敵、それはデスに受け入れられないが故に死にきれない運命となってしまった自分自身であり、自分を過去の自分に殺させることこそが彼の真の目的だった。そんな未来に自身がたどる運命に背を向けた現在のサノスは過去へと戻り未来を変えることによってそんな運命にさえ勝利してしまう。全く予想できない結末でありながら、ずっと言われてきた"Thanos wins."の意味がここでやっと完全にわかる。なんとも秀逸な物語の終わり方だ。

後半に続く作品は未来でゴーストライダーかつギャラクタスのヘラルドとなったパニッシャーことフランク・キャッスルが主人公のCosmic Ghost Rider。Thanos Winsのどこか神話的な雰囲気から打って変わって、本作はブラックジョークにまみれたニヤニヤしながら読めるコミックとなっている。

未来でサノスに敗北し彼の下僕となっていたフランクは自身の過ちを根本から正すべく、過去にいってまだ赤ん坊のサノスを殺すことを決意するが、サノスは幼児の時点ですでに異常に強く、フランクはサノスを殺すより自分が彼を育ててヴィランになるのを阻止しようとする。しかし未来に行ってみると、結局サノスはパニッシャーを名乗り、歪んだ正義感で世界を支配していた。彼を止めようとするもあまりの力の差に敗北したフランクに対し、サノスは自身の下僕となるように要求する。もう一つの未来で自身が犯した罪をもう一度犯すことを拒否したフランクはサノスと再度対決し勝利、赤ん坊を元の時代に置いていくことでサノスによって支配された未来を消すのだった。

ゴーストライダーでありながらギャラクタスによって授けられたパワー・コズミックまで持ち合わせ、かつ狂っているレベルのおちゃらけた性格の謎の新キャラの正体がパニッシャーというハチャメチャすぎる設定が大きな話題を呼んだ本作。作品自体は全力で悪ふざけをしながら、フランク・キャッスルというキャラクターのテーマである懺悔や後悔といったものを全体のテーマにしていてすごく面白い。むしろぶっ飛んだタイムスリップSFに舵を切ったからこそできる演出を活かしながらしっかりパニッシャーの物語を描いたことが魅力的な作品だ。

過去を変えることで自分が持つ後悔を取り除こうとしたフランクに待っていたのは自分が何も変えることが出来なかったという事実であり、さらに新たに生まれた未来では彼の家族はサノスに守られてギャング抗争に巻き込まれることもなく幸せに暮らしていた。サノスを世界を支配する悪とみなすかパニッシャーとして自分が出来なかったことを成し遂げた者とみなすか、フランクは決断を迫られる。過去の悲劇を変えたい、自身の家族を救いたいという彼の究極の願いに対して、前者は全く無意味、後者は悪魔であるサノスが他を犠牲にして成し遂げてしまったという皮肉な事実が一気に突き付けられてしまうのだ。最終的に彼は過去を変えるのではなく悲劇や罪を背負い、未来に希望を見出す道を選び、サノスと対峙し勝利する。パニッシャーおちゃらけゴーストライダーになるという酔っ払った悪ノリで作ったような設定ながら、最後まできちんとフランク・キャッスルの物語であり続けているのが本作の何よりの面白さだろう。

もちろん悪ふざけパートも大満足だ。未来のガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのメンツは面白いし、ケーブルが倒されては過去に戻って新たに集めたヒーローたちをゴーストライダーがぶっ殺していく流れもめちゃくちゃいい。根本はまじめだけれどふざけるとことはふざけ倒したノリが最高に楽しい、まともな作品じゃできないノリだ。

何作にもわたる宇宙を舞台にした壮大な物語の始まりとなる二つの物語、それぞれ単体として楽しめるのはもちろん、ここから広がるDonny Catesの世界観のはじめの一歩にも是非お勧めしたい。

 

Thanos by Donny Cates (Thanos (2016-2018)) (English Edition)

Thanos by Donny Cates (Thanos (2016-2018)) (English Edition)