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Daredevil #167

Daredevil (1964-1998) #167 (English Edition)

デアデビルことマット・マードックは偶然居合わせたパーティー会場で起業家エドウィン・コードがアーマーに身を包んだ謎の男モーラーに襲われる現場を目撃する。コードを守るためデアデビルとしてコードの身辺やモーラーの正体について調査を始めるマットだったが、コードは単なる被害者というわけではなかった。

四月の後半に買ったFrank MillerによるDaredevil誌のランをまだちまちまと読み進めているわけなんだけど、全部読み切ってから紹介すべきか、分冊になっている巻ごとに紹介すべきか、はたまたエピソードごとに小分けにして紹介するべきか絶賛迷い中で結局ブログの更新が滞ってしまっている現状。進行度としてはちょうど約半分、エレクトラが生き返るところくらいまで読んでいて、いよいよ超名作と名高いBorn Again編に突入しそうなところなのですごく楽しみだ。

ざっと今まで読んだ部分の全体的な印象についても話すと、序盤のまだMillerがアートのみの担当の時期は全然面白くなかったけど彼が物語まで担当しだしてからは一気に面白くなった。現在のコミックやドラマ版にも通ずる忍者やエレクトラがいる世界観の始まりもまさにキャラクターの歴史を感じるアメコミの醍醐味を楽しめるし、時にドラッグやメディアのもたらす過剰な影響などの社会問題にも切り口を入れていく展開もシリアスながら面白い。何よりデアデビルというキャラクターの法律家という側面をMillerがよく理解していて、自警団としての私的な制裁と法の裁きのはざまに立たされるマットの苦悩をうまく描いている。アートもきれいで、とにかくMillerの描く人物は目力が強くて印象的だ。結構目を大きく描きがちなMillerだけど、その目に表情が強く表れていてキャラクターの感情をうまく演出している。物語に絵とどれをとっても一流の良さなので、名作と評されるのも無理はない。

前置きが長くなってしまったけど、今回はMillerのライティングには触れず、まだ彼がアートのみの担当だった時期に一話だけ傑作があったのでそちらを紹介していく。MillerがDaredevil誌のアートを担当し始めた時期はRoger McKenzieという人物がライターを担当していたんだけど、この人の話は基本的に面白くない。McKenzieがライターを降りてMillerが引き継ぐ間の一話のみ、AvengersやAmazing Spider-Manを担当していたDavid Michelinieが話を書いた。それが本作#167だ。

この作品の敵であるモーラーことアーロン・ソームズは単なる犯罪者ではなく、もともとはまっとうに働いていた人間だった。コードが社長を務める企業で年老いるまで働いていた彼はパソコンの導入によってやむなく退職することになった。しかし彼が退職金をもらおうとしたとき、コンピューターの打ちミスで彼が働いていた数十年間の記録が消えてしまっていることが発覚。コードはこれをいいことにアーロンに退職金を支払わず、また記録が残っていない以上法律で追及することも難しい状況だったのだ。終盤コードを追い詰めたモーラーは彼を殺すと思いきや、コードのクレジットカードや銀行のカードを奪って捨て始める。アーロンの望みはあくまでコードに自分の苦しみをわからせることであり、それ以上の制裁を望んでいたわけではなかったのだ。しかし追ってきたコードの護衛がモーラーを狙撃、ことのすべてを知ったデアデビルは彼を助けようと動くも、結局モーラーは死んでしまう。社会から切り離され孤独になっていた彼の墓石の前に花を手向けに現れたのはマット一人であった。

デアデビルのテーマといえば、法では裁けない悪だ。法律家であるマットがあえて法を破ってデアデビルとして活動しているのは、専門家である彼が法には抜け穴があり、すべての悪を法で裁くのは無理だと一番わかっているからだ。本作のモーラーもまた、そんな社会の闇に突き落とされた被害者の一人だろう。法では裁けない敵と闘うからこそ、マットは法を、そして父との誓いを破りデアデビルとして闘う。この作品は彼がなぜ必要とされるのかをきれいに描き出した傑作だと思う。

直後にMillerがライターに就任したことで話題を持っていかれている感じはするものの、本作もまたデアデビルというキャラクターの特徴をうまくくみ取っていて、もっと注目されていい作品だと思う。Marvelの月額性読み放題サービスのMarvel Unlimitedにも入っているうえ、一話完結の物語でFrank Millerのアートも楽しめるし巻末にはデアデビルのオリジンや能力などの簡単な解説もついているからデアデビルに初めて触れる人にも是非読んでほしい一冊だ。

 

Daredevil (1964-1998) #167 (English Edition)

Daredevil (1964-1998) #167 (English Edition)