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Moon Knight Vol. 1: From the Dead

Moon Knight Vol. 1: From The Dead (English Edition)

ニューヨークに戻ってきた危険なヴィジランテ、ムーンナイト。独自に犯罪との闘いに身を投じる彼には、警察とも協力するヒーローであるミスター・ナイトというもう一つの顔があった。自身の中の複数の人格に翻弄されながらもムーンナイトは夜の街を守るために闘い続ける。

以前紹介したIron Man: Extremisなど様々な作品を手掛けるベテランライターWarren Ellisが斬新なアイデアを使いながら手掛けたムーンナイトの作品が本作From the Dead。Vol. 1という表記になっているけれどEllisが担当したのはこの一冊のみで、しかもそれぞれの話が独立した短編集だからかなり気軽に読むことが出来た。時系列的には以前紹介したMoon Knight by Brian Michael Bendisの直後に出版された作品だけど、キャラクターの設定や雰囲気は完全に一新されたものになっている。

アーティストはDeclan Shalvey。特に彼の作品を読んだことはないんだけど、結構いろんな作品のカバーで見かけるから本作を読んだ時もどこか見慣れた印象だった。この作品で最も素晴らしいのは間違いなくこのアートで、とにかくムーンナイトが映える。ムーンナイトといえばマントだけど、このマントの描き方がとにかくすごい。彼がグライダーから飛び降りるシーンでは三日月をバックにページ一面に広がり、格闘するシーンでは背中から一直線にのびたマントがムーンナイトの疾走感を醸し出す。時には白いマントとコマの余白がつながっているなんておしゃれなシーンもあって、とにかく読み進めていて全く飽きなかった。

もう一つアートに関して書いておきたいのは特徴的な色の使い方。本作のムーンナイト、ミスター・ナイトの服の色は純白で描かれている。純白というのはただ白いということではない。服のしわの影や光の当たり方による濃淡が全くなく、全身が絵の具の色のような真っ白なのだ。ムーンナイトが闘うのはほとんどが夜だが、暗い風景は濃淡のグラデーションがかかった暗色で塗られているのも相まって白い衣装に身を包んだムーンナイトの姿が一層映えるようになっている。単純にかっこいいだけでなく彼のどこかミステリアスな部分が不自然なまでに鮮やかな彩色で描かれていて、本作の一番の見どころといっていいだろう。

物語は前述のとおりすべての話が独立した短編になっているのだけど、正直すごく刺さるものはなかったかな。基本的にどの話も中身よりも斬新な演出や設定を前面に押したものばかりで、あんまり自分の好みには合わなかった。Ellisが書いた長編作品のIron Man: Extremisが大好きだったから単純に自分が期待していたものと違ったというのもある。とは言いつつもShalveyのアートの遊び心と物語の目新しさの相性はよくて、どの話もある程度の楽しさを感じる安定した出来にはなっているから、どんな人もさらっと読める作品ではあると思う。

ドラマ化も決まって、現行のAvengers誌でも登場し注目が集まるムーンナイトだけれど、キャラクターの入門書としてはもちろんShalveyの絵を見たいという人にはもってこいの作品だ。もっと深くムーンナイト作品を読みたいという人にはBendisによるランもぜひおすすめしたい。

 

Moon Knight Vol. 1: From The Dead (English Edition)

Moon Knight Vol. 1: From The Dead (English Edition)