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マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン

マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン (MARVEL)

今やコミックの誌面を飛び出し銀幕でも大人気となったヒーロー、スパイダーマン。彼の冒険はStan LeeとSteve Ditkoが手掛けたAmazing Fantasy #15に掲載された短編から始まった。その後は活躍の場を自身の名を冠したAmazing Spider-Man誌に移し、個性豊かな様々な敵と闘いを繰り広げてきた。そんな彼の最初期のコミックをまとめて邦訳したのが今作、マーベルマスターワークス:アメイジングスパイダーマンだ。

基本的にはアメコミの原書について書いている当ブログだけど、偶然本作を手に取る機会があったので今回は初めての邦訳コミック紹介。自分にとって邦訳本を読むこと自体がかなり久々なので、改めて日本語でアメコミが読める感動に浸ってます。

本作に収録されているのは、冒頭でも少し紹介したようにスパイダーマンが初登場したAmazing Fantasy #15と、その後彼を主人公に続いて連載されたAmazing Spider-Man #1-10だ。スパイダーマンはもちろん、バルチャーやサンドマン、ドクター・オクトパスのような有名ヴィランたちの初登場回も多く収録しているので史料価値も高い一冊だ。さらに翻訳と解説を担当したのは日本の海外漫画研究の第一線を率いてきた小野耕世先生。発行当時のコミックス文化の風潮や反映されている社会観にまで触れられた解説は、それだけでかなり読みごたえがある。

まず読んでみての正直な第一印象としてはかなり読みにくかった。本作に限らず当時のコミックはとにかく文字が多く戦闘中にもいちいちキャラクターが状況を詳しく説明していたりして、絵だけで構成されているコマは一つもない。付録の解説でも触れられているが、この頃のコミックは絵での表現より文で話を進める読み物としての側面が強かったことがよくわかる。またよく見てみると擬音語や擬態語が使われていることもなく、現在のコミックスの表現の進化を実感できる。

物語で気になったのは、スパイダーマンが自身の蜘蛛の力を使うのはもちろんだが、それとは別にピーター・パーカーとしての発想や科学知識で闘う話が多いことだ。十代の少年が主人公で悩める私生活にも焦点を当てるという当時としては異色のテーマを引っ提げて登場した彼だが、ピーターとしての側面も強調して物語を作るというStan Leeの気持ちがひしひしと伝わってくる。すでに五十年以上も活躍しているスパイダーマンの持つ魅力がこの時点ですでに完成されているのは驚きだし、このキャラクターの人気の理由がよくわかる。

自分が一番気に入った回はスパイダーマンの宿敵の一人、ドクター・オクトパスの初登場回であるAmazing Spider-Man #3だ。スパイダーマンと同じように放射線が原因となって機械のアームと融合し力を得た彼は自身の力を使って悪事に走り、スパイダーマンはオクトパスを止めようとするが圧倒的な力の差に敗北してしまう。一度はあきらめかけたピーターだったが、ヒューマン・トーチの演説に勇気をもらい今度は力だけでなく自身の科学の知識を駆使してオクトパスと再戦し勝利をつかむのだった。そこまで長くもない話だが、この一つの話の中にスパイダーマンとしてだけでなくピーター・パーカーとしての武器で闘うシーンや、責任の伴わない力の危険さを説くStan Leeの哲学が詰め込まれている。同じような境遇で力を手に入れながら、力の使い方や意識を誤ったドクター・オクトパスも、いかにもスパイダーマンの宿敵という感じがしてとても魅力的だ。Leeのライティングの濃密さに改めて感動した。

スパイダーマンの初期のコミックを収録したとあって読み物としてだけでなく史料価値も高い本作。キャラクターの原点に触れたい方にはお勧めしたい一冊だ。

 

マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン (MARVEL)

マーベルマスターワークス:アメイジング・スパイダーマン (MARVEL)