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アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Daredevil: Guardian Devil

Marvel Knights Daredevil by Smith & Quesada: Guardian Devil (Daredevil (1998-2011)) (English Edition)

恋人カレン・ペイジから突然の別れを告げられたマット・マードック。失意の中日常を送る彼は、謎の集団から逃げる少女と赤子の心音に気づく。彼らを救うべく動き出したマットだったが、ひょんなときに彼らはマットの前に現れる。しかし彼らはマットのとてつもない秘密を知っていた。

今や映画でボロ儲けしウハウハな天下のMarvel様だけど、実は過去には破産したほど混迷を極めていた時期もあった。そんな会社を立て直すべく編集者に任命されたJoe Quesadaが打ち出した新ブランド、それがMarvel Knightsだった。スパイダーマンX-MENとは違いB級とみなされていたデアデビルパニッシャーブラックパンサーといったキャラクターを主役に、今までの流れをあまり意識せず自由な発想で物語を作るというテーマのこのブランドは大ヒットし、Marvelの一時代を気づき上げた。本作はそんなMKの中でも初期の作品で、アーティストは編集のQuesada本人、ライターはQuesadaが直々に頼み込んだという映画監督兼俳優のKevin Smithという布陣で始まった。まさにMarvelの命運をかけ本気のクリエイター陣で生み出されたコミックというわけだ。実は去年がMK二十周年で過去のペーパーバックが復刊されるなどかなり盛り上がっていたタイミングだったり、ちょうどデアデビルのコミックを読みたかったから自分は本作に加えてParts of a Hole、Fatherを収録したMarvel Knights by Joe Quesada Omnibusという合本を購入したので、これからしばらくデアデビルの紹介が続くかも。

映画業界に疎いからSmithの名前も初めて聞いたんだけど、もともとかなりのオタクだったらしいし娘の名前にHarley Quinn Smithとかつけてるから、とりあえず絶対いい人なのはわかる。読んでみて普通のコミックより物語の起承転結が結構はっきりしてたから、それも映画製作の経験なのかなと思ってみたり。Quesadaのアートは実はあんまり好きじゃないから何とも言えないな。アクションはかっこいいんだけど、結構な頻度で猛烈な作画崩壊を起こすんだよね。まあby Joe Quesadaのタイトル通り合本収録の作品はライターは違えど全部アーティストはQuesadaだから、いやでもしばらくはずっと見ることになるし慣れるのかな。

本作のテーマは信仰。カトリックの熱心な信者であるデアデビルにとって宗教は切っても切り離せない関係にある。この信仰が人生でどんな意味を持つのか、デアデビルとして闘うマットにとってどんな影響があるのかという問いに、本作は切りかかっていく。

物語冒頭から世界の救世主になるといわれる赤子と処女ながら母となった少女が現れ、明らかなキリスト教的メタファーを含みながら物語は進行していく。世界を救うといわれマットの手に渡った赤子、逆に赤子は世界滅亡のきっかけになると主張する謎の集団、さらには赤子を守る悪魔のような異形の男と、かなり非現実的なキャラクターが次々と現れマットを困惑させる一方、そんな神秘的な存在であるはずの彼らにはどこか不自然に人工的な側面があったりするところが読んでいて面白い。例えばデアデビルがチンピラたちに誘拐され、なぜかマットの正体を知る異形の男に出会うシーン。この時マットは天使の叫びというこの世のものとは思えない音を爆音で聞かされて苦しみ悶えて動けなくなってしまうのだが、ほんの一瞬音が消える瞬間があることからマットはこれが再生されたループ音声であることを見破り、スピーカーを破壊することで脱出する。マーベル・ユニバースの話だから天使も悪魔も出てきて別におかしくはないし、なぜかみんなマットの正体を知っているし不思議な存在といっても説得力はある。でも、別の世界から来た悪魔が人間一人捕まえるのにわざわざチンピラ雇ったりスピーカー買ったりするか?そんな若干の矛盾を抱えどう転ぶかわからない物語を追うハラハラ感がすごく楽しい。

世界を滅ぼす子供を抱えると同時にマットには様々な厄災が降りかかり、もともと傷ついていた彼をさらにいたぶっていくのだが、ここがまさに本作の肝でありデアデビルの魅力を存分に引き出したパートだ。彼の親友でありビジネスパートナーのフォギーは強姦疑惑で逮捕され、別れたカレンが戻ってきたかと思えばエイズに感染していたと告げられる。いよいよ自身の不幸の原因は赤子だと判断したマットは元恋人のブラック・ウィドウの説得も聞かずに赤子を殺そうとビルの屋上から放り投げる。結局衝動的に助けて事なきを得るとはいえ、今まで見たことあります?赤ちゃんをビルからぶん投げるヒーロー。こんな話スパイダーマンでやったら即炎上、こんなのスパイダーマンじゃないやらライターを解雇しろやらそんなコメントが寄せられるのは火を見るように明らかだ。こういう無茶苦茶な話が唯一できるのがデアデビルだと思うし、ここまでどん底に落ちてから這い上がってくるのが何よりの魅力だと思う。

わかる人はわかると思うけど本作はFrank MillerのBorn Againと流れがかなり近くて、実際SmithもMillerのランにかなり影響を受けたといっている。でも本作がBorn Againの二番煎じになっていないのは最初に書いた信仰というテーマのおかげだ。もし赤子の誕生が本当に神の再臨で世界を滅ぼすトリガーなのだとしたら、それは神が人類を見放したという意味。これを知ったマットはそれまで正義の根源だった信仰心を失い、いよいよ何もできなくなってしまう。そんなときに再会したマットの実の母であり協会のシスターであるマギーの言葉が本作のかなめ。たとえ天国なんてものが存在していなくても死んでしまったらわからない、信仰心とは実際に神が存在するかどうかとは別物であると諭されたマットは再度神を、宗教が教えた正義を信じることになる。たとえ神がいなくても、努力が無に帰ろうとも、どんなに世界がくるっていても、その信仰心はマットを正気につなぎとめる鎖となり、デアデビルが闘い続ける理由となる。そう信じるからこそデアデビルは神の代わりに悪に正義を下す守護天使となるのだ。

宗教とデアデビルというつながりを強調しながら、純粋に先が読めない展開で重厚なサスペンスとなった本作。今回触れた以外にもかなり重大な事件が起きたり予期せぬ黒幕がいたりするんだけど、そこはぜひ皆さんで実際に読んで楽しんでもらいたい。ただ、デアデビルの危うさ、動機、そして強さを堪能できる至高の一冊として自信をもっておすすめできる作品だ。

 

 

Empyre

Empyre (Empyre (2020)) (English Edition)

謎の救助信号を受信し月面に降り立ったアベンジャーズ。しかしそこで見たのは豊かな緑に覆われた庭園と、温厚な植物種族コタチの救世主セコイアと、その父でありかつて人間のアベンジャーだったソーズマンだった。かつて平和的な関係だったはずのクリーに裏切られて虐殺され、長年続くクリー/スクラル戦争の原因ともなった事件によって危機的状況に瀕したコタチは過去にアベンジャーズの協力によって復活し、救世主の成長を待ち続けていたのだ。久々に出会った仲間と温かい時間を過ごすアベンジャーズだったが、ソーズマンによって恐ろしい事実が告げられる。コタチの滅亡とともに敵対関係に陥ったクリーとスクラルが長い時を経てついに和解し、復活したコタチと救世主を倒すためにこちらに向かっているというのだ。月の庭園に神秘を感じコタチと自分の間に神聖なつながりを感じていたアイアンマンは絶対に敵を食い止めると誓い、彼の呼びかけでアベンジャーズは団結する。しかし、クリーとスクラルを率いる新たな王がかつてヤング・アベンジャーズの一員だったハルクリングであることを彼らはまだ知らなかった。

コロナの影響で決して世界情勢が良好だったとは言えない今年。コミック業界も例にもれず、長い歴史の中でも異例な刊行ストップという対応を迫られていたわけだけど、そんな中何とか行うことが出来た毎年恒例のMarvel夏の大型イベントが本作Empyre。まさしく今年を象徴するコミックだけど、クリー、スクラル、コタチ、そして地球のヒーローが所狭しと大乱闘を繰り広げるさまはまさにクロスオーバーという感じで大いに楽しめる作品だ。

ライターはImmortal HulkやGuardians of the Galaxyを担当しているAl Ewingと、現在Fantastic Fourを書いているDan Slott。両者とも人気なだけあって、さすがのライティングで本作でも読者を飽きさせない巧みな物語を紡いでいる。特に、ここまで多くの数のキャラクターが出てくる中で誰にでも一度はしっかり見せ場を作っているのが本当に素晴らしい。アーティストはValerio Schiti、最近だとTony Stark: Iron Manを描いてたと思う。個人的にはBendis時代のGuardians of the Galaxyの印象が強いな。この人はデザインのセンスが最高で、本作でもアイアンマンのアーマーだったりセコイアの服装だったりで抜群のスキルを発揮している。コタチ軍の植物と人が混ざったような体形とか民族衣装みたいな戦闘服、本当に見てて飽きないな。あと個人的にはにやって言う笑い方がすごく好き。トニーとかロケットみたいな感情がはっきりとは顔に出ないキャラクターの表情がすごくうまいと思う。もちろん、シングが暴れまくるような見開きのアクションも最高だ。

本作はまさにクロスオーバーという感じでトンデモ規模の敵にヒーローが団結して闘う物語で迫力は抜群なんだけど、前述のとおり細かいキャラクターの動きまで完璧に描写しているんだよね。急に宇宙帝国の王に祭り上げられたハルクリングが単なるお飾りから真の王へと成長するのに合わせて同じく王の称号を持つブラックパンサーの心中が描かれたり、天才的な頭脳を持つアイアンマンとミスター・ファンタスティックのやり取りで物語が進んだりと、クロスオーバーらしくキャラクター同士の掛け合いでそれぞれの心情が描かれていくのが本当に面白い。

個人的にぐっと来たのはウィッカンとアイアンマン。遺伝子レベルの検査で見破れなかった偽物のハルクリングを夫のウィッカンが見破るシーンが最高で、その時のセリフ、"The way his mouth twitched, the way he held himself, the look in his eye... Yeah. Total stranger. I know Teddy. Even possessed or mind-controlled, I'd see something of him. That's not him."っていうのが本当にアツいよね。少し前にちょうどYoung Avengersを読んでたからビリーとテディのカップルはマジで推していきたい。最後の#6のアイアンマンもカッコよくて、何よりキャラクターの本質を見抜いてる感じが好きだな。アイアンマンといえば自身の犯した罪の重荷を背負いつつ、贖罪のためにヒーローになったキャラクター。本作冒頭で大失態をして物語通してずっと落ち込んでたトニーだけど、それこそがトニー・スタークの強さでもあるんだよね。映画版のアイアンマンの冒頭を思い出しながら読んでたけど、まさにアイアンマンのカッコよさを凝縮したような闘い方だった。

物語全体を通しても単にコタチ対ヒーローに落ち着くんじゃなくて、その闘いの中でクリーとスクラルの同盟の秘密がわかったり、コタチ側の真の黒幕もあぶりだされてくるのが面白い。同時にコタチとルキルという敵との闘いを描きつつややこしくならない程度に抑えているから、複雑だけど理解はできる物語が出来てるんじゃないかなと思う。ここら辺もやっぱりさすがベテランライター二人っていう感じかな。

今年の大型イベントということもあって、AvengersやFantastic Fourをはじめいろんなタイトルとかかわり、さまざまなキャラクターが入り混じる本作。お祭りイベントとしての高揚感と地に足の着いたライティングが楽しめる良作に仕上がっていると思う。今後もGuardians of the Galaxyや新タイトルのS.W.O.R.D.にもつながるらしいから読んでみて大正解、今後も楽しみだ。

 

 

Guardians of the Galaxy by Al Ewing Vol. 1: Then It's Us

Guardians of the Galaxy by Al Ewing Vol. 1: Then It's Us: It's On Us

ユニバーサル・チャーチ・オブ・トゥルースとの闘いを終え、再び平和な生活を満喫していたガーディアンズ・オブ・ギャラクシー一行。そんなとき、ノバから緊急の連絡が入る。突如死からよみがえり暴走しているゼウスらオリンポス神を止めるためガーディアンの力が必要だというのだ。しかし闘うことをやめ家族としてそれぞれが求める静かな暮らしをすることに決めていた彼らはノバの申し出を辞退し、一部を残して再び日常を過ごそうとする。だがその夜、ピーター・クイルは静かにベッドを抜け出し、宇宙船へと乗り込んでいった。

Donny Catesのランが終わり、新たに今を時めくAl Ewingが担当することになったGuardians of the Galaxy。キャラクター盛沢山でとんでもない規模の敵と闘う派手さが売りだったCates期とは違い、今度はウィットにとんだ戦術や複雑な各々の思惑のぶつかり合いが魅力の物語になっている。

ライターは前述のAl Ewing。Immortal HulkやEmpyreをはじめ、今やMarvelではおなじみのライターだ。特にMark Waidらとともに担当したAvengers: No Road Homeは本作に直接つながってるから本作を読む人は要チェックだ。今後は本誌がEmpyreともつながるらしいからあんまり興味はなかったけど手を出してみたら、そっちもそっちで面白いんだよね。Ewingは裏切らない。

アーティストはJuann Cabal。どこかで見た絵だなと思ったら、以前紹介したFriendly Neighborhood Spider-Manを担当していた人だった。これまた特徴的な絵で、特にキャラクターの表情を繊細に描き分ける人だと思う。変顔やら殴られたシーンやらで結構コメディ寄りの雰囲気を出すのが上手いけど、一転してシリアスな表情もしっかり描けるのが本作でわかった。次巻はアーティストが変わっちゃうみたいだけど、普通にもっと見ていたい絵だったから寂しい。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーといえば多くの人が映画版のコメディ寄りで人情味のある感じを思い出すと思うけど、実は初期のころのコミックはがっつりヒーローものという感じで、ギャグも一応あって殺伐とまではいかないけど結構さばさばした雰囲気のチームだったんだよね。そこをうまくミックスして全体のチームの雰囲気を作れたのが本作の面白いところだと思う。みんなでバーベキューしながらくだらない話してたりガーディアンズは家族だっていう話も出しながら、ピーターとロケットは宇宙のために自らの幸せを犠牲にしてまで闘おうとする。コミックと映画の両方のイメージを合わせて、後々このギャップが物語の起点になっていくから面白いライティングだ。今までのガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが好きな人も、映画の雰囲気が好きで読み始めた人も満足できる作品になっているんじゃないかな。

あとは最初に書いた通り、複雑な心理戦やスパイ映画みたいなぶっ飛び戦術合戦も魅力。ここら辺はEwingの以前の担当作でロケット・ラクーンが主人公のRocketでも披露していた描写かな。マーベル・ユニバースの道具や背景を最大限に生かして、複雑な計画を立ててミッションに挑むガーディアンズはなんとも爽快で、戦略と戦略のぶつかり合いや、負けていると思わせて実は罠でしたみたいなどんでん返しもあって、とにかくドキドキしながら読めるコミックだった。細かいこと抜きにして、純粋に読んでて楽しいって何より大切なことだと改めて感じさせてくれる作品だ。

割とすらすら読める物語だけど、しっかりガーディアンズの根幹は活かして軽すぎず重すぎずのバランスをとった本作、割と誰でも読める作品に仕上がってるなと思う。Ewing担当ということもあって今後マーベル・ユニバースの中心になっていってもおかしくないから、今後の展開の広がりにも期待していきたいコミックだ。

 

Guardians of the Galaxy by Al Ewing Vol. 1: Then It's Us: It's On Us

Guardians of the Galaxy by Al Ewing Vol. 1: Then It's Us: It's On Us

  • 発売日: 2020/10/27
  • メディア: ペーパーバック
 

 

X-Men by Jonathan Hickman Vol. 1

X-Men by Jonathan Hickman Vol. 1

独立国家クラコアの建国やミュータント種の死の克服によって新たな時代へと突入したX-MEN。しかしその裏では様々な敵が動き出していた。新たな反ミュータント組織オーキス、未来に出現が預言されている虐殺ロボットであるニムロッドの予兆、クラコア産の薬品に反対する植物学者集団など、差し迫る脅威にX-MENは挑み続ける。

先日紹介したHouse of X/Powers of Xの直接の続編にあたり、Jonathan HickmanのX-Men誌のランの第一巻にあたる作品が本作。HoX/PoXにて奇想天外な発想で全く新しいX-MENの物語を始めたHickmanだけど、本作でも前巻の流れを順当に拾いつつ世界観をじわじわと広げている、正統派の続編という感じだ。

アーティストは主にLeinil Francis Yuが担当している。邦訳版も出ているNew AvengersやSecret Invasionなんかを担当しているから国内でも有名なアーティストなんじゃないかな。個人的にも大好きだからずっと絵を見てられるのがすごく幸せだ。Yuの絵はとにかく綿密で、細かい線で陰影や表情、力強い筋肉を描くのが特徴。一番上に載せた本作のカバーのウルヴァリンなんて見てくださいよ、筋肉隆々で浮き出た血管までしっかり描かれていてめちゃくちゃかっこいいでしょ。ちょっとうつむきながら正面を向いてる構図もYuの絵でよく見るけど、ここにも細線で描きこんだ影がいい味を出してちょっと暗めでシリアスな表情が完成している。大きく見ても細部を見てもとにかくかっこいい絵を描くのがこのLeinil Yu。いつ見てもほれぼれするし、これがまだこのシリーズでしばらく見れると思うとワクワクが止まらないな。

話の中身の方についてなんだけど、正直最初読んだときの感想は圧倒的に地味だなという感じだった。というのも、前作HoX/PoXがミュータント種の存亡をかけた闘いにタイムスリップ要素が交わった超絶ダイナミックな話だっただけに、一人のものすごい強い敵と闘うわけでもなく細かい話を並列でいくつかのんびり続けていく本作のスタイルには少し拍子抜けしてしまった感じだったのだ。

ただ、一つ一つの話を読んでみると順当にHoX/PoXで創り上げた世界観を広げていることがわかるだろう。オーキスやニムロッドなど既出の敵はもちろん、クラコアから生まれた薬で人の平均寿命が延びたことで人類滅亡の野望を砕かれたボタニスト集団や、クラコアとアポカリプスの歴史にかかわるもう一つの生きる島アラッコの存在など、新しいX-MENの世界を活かして物語の幅をじわじわと広げているのがわかる。確かに決して派手ではないけど、複雑な世界観をしっかり描くHickmanの良さがしっかりわかる作品だと思う。

個人的に気になるのはチルドレン・オブ・ザ・ヴォールトとミスティークの話。チルドレン・オブ・ザ・ヴォールトって初耳だけど、結構前からいるキャラクターで入るらしい。遺伝子操作で強化された人類って間違いなくホモ・ノヴィッシマにつながる存在だよね。HickmanのX-Menにおけるラスボスになりそうな気がして楽しみだな。ミスティークとデスティニーの話もすごくワクワクする、というのもデスティニーがクラコアのことを知っていたとして、なんでミュータント社会を壊したがるのかが不思議だからだ。いくら自分が生き返れないといっても私情でミュータントの楽園を破壊するとは思えないし、未来視っていう能力自体が割と何でもありだからどんな風に話をいじるのか楽しみだ。

最後は紹介というより感想文みたいになっちゃったけど、とにかくワクワクさせてくれるコミックがX-Men。もうすぐ次の巻もでるけど、もう今の時点で今年読んだ中で五本の指に入る面白さだから本当に楽しい。今後大型イベントのX of Swordsも控えてるし、Hickmanのライティングにも加えてYuの絵も拝めるんだから今後も盛り上がること間違いなしだ。

 

X-Men by Jonathan Hickman Vol. 1

X-Men by Jonathan Hickman Vol. 1

  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: ペーパーバック
 

 

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 4: End of Hell

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 4: End Of Hell (Daredevil (2019-)) (English Edition)

ヘルズ・キッチンをむしばむ新たな脅威とこれまでとは違う方法で闘うことを決めたマット・マードックしかしそんな彼の努力とは裏腹に、街を舞台にしたギャングたちの争いはエスカレートしていく。さらに世界で最も裕福な一家、ストロムウィン家の兄妹もヘルズ・キッチン買収計画に乗り出し、市民たちは危機にさらされていく。

相も変わらずめちゃくちゃ面白いChip ZdarskyのDaredevil。シリーズ開始からいきなりマットがデアデビルをやめるという出だしから始まり、これまでマットがひたすら苦悩し続けるという重い展開だったけども、この巻でやっと物語がひと段落した気がする。このシリーズはあまり派手な展開はせずにひたすらマット自身の内面の物語を中心にして進んできたと思うんだけど、いよいよこれまでの積み重ねが爆発して内容的にも絵的にもかなりぶっ飛ばしたクライマックスといった感じのシーンが続いていくからめちゃくちゃテンションが上がった。

本シリーズに関して最近すごく気になったのは、最近発表された#26の情報。年末から始まるVenom関連のイベント、King in Blackに本作もタイインとしてかかわっていくことになるらしい。まずこのシリーズって今までかなり独特な世界観を気づいているから他タイトルとのクロスオーバーとかは避けていくのかと勝手に思ってたし、何より今自分が読んでいる中でも一、二を争うほど面白いタイトルのVenomとDaredevilが交わるっていうんだからすごくうれしいし楽しみ。毎度本当にいい意味で予想を裏切ってくれるタイトルだ。

前巻で市民を守る新しい道を進んだマットだけど、本作の最初で今のマットの闘い方がより詳しく描かれるのがまず最初のポイント。以前のように暴力で犯罪者と闘うのではなく、洞察と隠密行動で犯罪の根源そのもの、犯罪者が生まれるような社会そのものを相手に闘うという新しい信念がより伝わってくる。以前より相手の動きに集中し、必要最低限の暴力で相手に対応しようとする戦闘シーンや、悪者をぶちのめすことがゴールだった以前と違い、財政や社会の圧力を駆使して敵に立ち向かうというような描写がより丁寧に描かれていた気がする。物語としてはもちろんスパイ映画みたいなアクションもかっこいいし、本作のメインのパートではないけどかなり好きな導入だった。

この巻の一番のテーマは、マットが捨てたデアデビルとは何だったのかということ。法を尊重しながらも暴力を使って闘うというグレーゾーンで活動してきたデアデビルは、その行動が法そのものや神の定めたルールに触れてしまった時点でマットにとって過ちとなった。今まではマットの視点でそんな法や神の教えと向き合う葛藤が描かれてきたけど、同時に街がデアデビルを確実に必要としていて、しまいには一般市民がついにデアデビルのコスチュームをまとうような状況も並行して見せられていた。本作ではついにその二つの視点がつながって、主観的にも客観的にもデアデビルという存在の意味が再定義されることになる。

デアデビルに限らず、派手なコスチュームを着たスーパーヒーローは市民にとって実際の存在より強く、アイコンとして存在しているんだと思う。とりわけデアデビルってヘルズ・キッチン専属だからご当地ヒーロー的な要素もあるんじゃないかな。単に一人の人物としてだけではなく、デアデビルというアイコンは街にとって良心の象徴のような意味を持っていたんだということが市民の行動によって読者に伝えられてきたのが今までの物語だった。

とりわけデアデビルのマスクをかぶる市民という構図はそれを象徴しているんじゃないかな。一人では闘うことが出来ない市民がデアデビルに変身して一歩踏み出すというのは市民がヒーローのアイコンから勇気をもらうという描写はもちろん、町全体でデアデビルの影響が広がっていくというのも面白いと思うし、コール刑事の視点からこの流れがどこか不気味にみられているのも印象に残る。明るいヒーローの象徴というだけでなく、デアデビルの「デビル」の部分、どこか恐ろしく街にとりつく呪いのような執念が頭をよぎる描写だけど、マットの視点でデアデビルの闇が描かれてきたからこそ余計にそんな暗さを感じるのかもしれない。

そしていよいよ本作で、マット自身がデアデビルという呪いを目の当たりにする。たとえ自身がマスクを脱いでも、別の誰かが執念を受け継いで闘いの中傷ついていく。デアデビルとはもうマット自身ではなく、より大きな存在であることを初めて彼が理解するのだ。あらかじめマットが再びコスチュームをまとうことが予告されていた本作だけど、それは彼の闘う決意ではなく、過ちの償いとして自身が「デビル」の呪いを受け継ぐという自己犠牲なのだ。

いよいよデアデビルとして復活したマット。彼がこれまで目指してきた新しい闘い方とデアデビルの存在は共存できるのかなと考えてしまうけど、何より気になるのはラストの衝撃の一言。グレーゾーンにいながら法のために闘うというデアデビルの行動原理を考えたらすごくしっくりくる展開ではあるけど、今後物語がどうなってしまうのかとにかく楽しみ。説明不足で全体の半分くらいしか面白さに触れられてないけど、本作は相変わらずめちゃくちゃ面白いタイトルまだ四巻で追いつけるから、気になる人はぜひ読んでみてほしい。間違いなく自分の今年ベストだ。

 

 

House of X/Powers of X

House of X/Powers of X

"Humans of the planet Earth. While you slept, the world changed."チャールズ・エグゼビアによって全世界に発信されたこの文言を皮切りに、ミュータントは独立国家クラコアの設立を宣言し新たな時代へと前進した。過去、現在、そして未来へと続く人間との戦争の中でX-MENはさらなる段階へと進んでゆく。

去年コミック界隈で話題をかっさらい続けたJonathan Hickmanによる新X-Men誌の序章、それが本作House of X/Powers of X。本作ののちにX系列は様々なタイトルを展開し、Dawn of Xと呼ばれるブランドとなって現在も規模を広げ続けている。そこら辺の詳しい話はNew Mutantsの紹介の時に書いてるから、そっちも読んでもらえると嬉しい。コロナで発売が延期したこともあって始まってからペーパーバックの発売までかなりの期間待つことになったけど、前評判を裏切らないすごい作品だったから我慢の甲斐があった。

ライターは前述のJonathan Hickman、アーティストはPepe LarrazとR. B. Silvaが担当している。前のNew MutantsでHickmanが意外にもコメディがめちゃくちゃうまいっていうのを書いたけど、本作は打って変わってゴリゴリのSFだ。本作でもX-MEN一年目、十年目、百年目、千年目と時代をまたいだ物語が展開され、種族の存亡をかけた闘いが描かれる。Hickmanの物語の何よりの特徴は、とにかく綿密に練られた設定。本作でも話の合間に文章だけの解説ページが挟まれ、まず物語を読み、その後のページの解説を読んでやっと内容が理解できるというのが読み方の基本だ。なのでかなりどっしりした読後感は感じられるけど、物語の複雑さも併せて結構人を選ぶ構成にはなっていると思う。

アートで気に入ったのはHouse of Xのパートを担当していたPepe Larraz。このブログで最初に紹介したAvengers: No Surrenderも担当していたんだけど、なんだかめちゃくちゃ刺さる絵柄だった。とにかく曲線がきれいで、ごちゃごちゃしすぎないほどの程よい細かさも魅力だな。滑らかですごく見やすいのにキャラクターの表情はしっかりしてるからすごく好きだった。

本作の面白いところは、これまでのX-MENとは全く違った新しい物語を作ろうとしていること。というのも、X-MENは九十年代の熱狂的なファンが多いせいでかなり過去作を意識した展開をしがちだったし、自分がX-MENにとっつきにくい理由もそこだった。そんな中、Hickmanは全く新しい方向の物語を書いていて、その始まりがHouse of X/Powers of Xだというわけだ。新規読者でも入りやすく、今後数年間続くであろう新しい時代の始まりとしても十分に読む価値のある作品だろう。

肝心の内容だけど、本作はまさに新時代のX-MENにふさわしい重厚でとにかく楽しい物語だ。ミュータントの独立国家や千年後の世界まで広がる人類とミュータントの戦争などとにかく派手な内容が目を引き、圧倒的に練りこまれた世界観で新たな時代のミュータントの社会が描かれていく。「こんなもの見せられたらいやでもテンション上がるな!」っていうものが次から次へと出し惜しみなく出てくるからめちゃくちゃ興奮するし、とにかく楽しいっていう言葉が似あうコミックだ。大手出版社のコミックというのはずっと物語が続くという都合上なかなか思い切った展開はできないものだけど、逆に本作でこれだけのことをやっているということはMarvel側にそれなりの自信があるということだろう。こういう姿勢もDawn of Xの勢いを感じさせる一因かもしれない。

加えて、Hickmanのライティングも単に順を追って物語を描くだけではなく、かなり工夫されているのが面白さの要因の一つだろう。本作はX-MEN結成の一年目、十年目、百年目、千年目と時系列が交差しながら物語が進んでいき、さらにそこに時間軸とは別の横軸が加わって世界観が説明されていくのだけど、これが最初の方は何が起きているのか全く分からないまま読んでいくことになる。しかし物語の仕組みがだんだん明かされ、同時にそれまで隠されてきた秘密も開示されていくという構成が読者からすると半分謎解きみたいに感じる面白さにつながっているのだ。こういう複雑なライティング、生半可なことではただわかりにくい話になってしまいがちだけど、そこをしっかり面白さに昇華させてくるあたりがさすがHickmanだ。まさに複雑な設定と複雑なライティングを得意とする彼ゆえの技だろう。

ただあくまで本作は序章、今後続いていくであろうHickmanのX-Menのランの最初の一歩に過ぎない。だからこそ今後に向けての伏線がぎっちり詰まっているのもワクワク感の理由だろう。新たな人類の対ミュータント組織オーキスや、意思を持つ島クラコアとアポカリプスの歴史、ミュータントたちが直面する新たな敵など、今後につながる話題がちらちら出てくるたびに、これを使ってどんな展開をするのか考えてしまうのが我々読者の性だ。まだ実際にどうなるかはわからないけど、この絶妙なチラ見せも楽しさを煽る一因としてしっかり機能している。

現在は初のクロスオーバー、X of Swordsを迎えますます盛り上がっているHickmanのX-Menだが、まだ始まって一年だし話題に乗っかるならまだまだ間に合う時期だろう。今コミック業界でも一、二を争うホットなタイトル、まずは本作を手に取ってみてはいかがだろうか。

 

House of X/Powers of X

House of X/Powers of X

  • 発売日: 2019/12/11
  • メディア: ハードカバー
 

 

Immortal Hulk Vol. 4: Abomination

Immortal Hulk Vol. 4: Abomination

復活したリック・ジョーンズの行方を探るため、シャドウ・ベースの基地の跡地へと潜入したハルクとドク・サムソン。しかしそこにはシャドウ・ベースの罠が待ち構えていた。絶体絶命となったハルクだったが、闘いのさなか彼の中でもう一つの人格が目覚める。同じころベティ・ロスの死の真相を探っていたジャーナリストのジャッキーの前に、巨大な鳥の怪物が現れた。

Immortal Hulkももう四巻まで進んできて、どんどん物語が進んできたなという印象。ただ筆者は現在Vol. 6まで読み進めたところなんだけど、正直本作が一番微妙だった。この本自体が面白いというよりかは、次の物語への下準備っていう感じだな。なので今回はいつもよりさくっと紹介していこうと思う。

本作の一番の見どころはあふれんばかりの過去作へのオマージュだ。といっても自分は以前のハルクのコミックは読んだことがないから、元ネタを聞いてもフーンという感じなんだけども。まず冒頭からジョー・フィグジット、通称グレイ・ハルクが復活したり、ベティが変身した怪物が過去に登場したハーピィとレッド・ハルクの合体みたいな姿だったり、かなり過去作の設定を意識した描写が見られる。特にジョーの復活は今後バナーの中の人格の秘密にかかわりそうな話がちまちま出てきてるから、かなり面白くなりそう。

あとは相変わらずBennettの絵がすさまじい。今回特に新しい怪物が数体出てくるから彼のデザインをがっつり楽しめるのが最高に楽しかった。顔面がこぶしで口から酸を吐くアボミネーションもさることながら、ハルクのリアルな筋肉の不気味さに怪鳥の恐ろしさを足したベティのデザインがすさまじく怖い。顔が一見普通の人間に見えて頬まで口が裂けるのなんかはもう鳥肌モノだ。ここまでいろんな怪物が出てきたけど、いろんなバリエーションがありながら毎回めちゃくちゃ不気味なのが最高だ。

だいぶさっぱりだけど、本作はいろんな新キャラクターがでて話の今後の盛り上がりを予感させる巻だったと思う。次回からシャドウ・ベースの話やハルクの破壊衝動の新たな解釈などめちゃくちゃ面白い話が展開されていくから、早く紹介したい。

 

Immortal Hulk Vol. 4: Abomination

Immortal Hulk Vol. 4: Abomination

  • 作者:Ewing, Al
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: ペーパーバック