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House of X/Powers of X

House of X/Powers of X

"Humans of the planet Earth. While you slept, the world changed."チャールズ・エグゼビアによって全世界に発信されたこの文言を皮切りに、ミュータントは独立国家クラコアの設立を宣言し新たな時代へと前進した。過去、現在、そして未来へと続く人間との戦争の中でX-MENはさらなる段階へと進んでゆく。

去年コミック界隈で話題をかっさらい続けたJonathan Hickmanによる新X-Men誌の序章、それが本作House of X/Powers of X。本作ののちにX系列は様々なタイトルを展開し、Dawn of Xと呼ばれるブランドとなって現在も規模を広げ続けている。そこら辺の詳しい話はNew Mutantsの紹介の時に書いてるから、そっちも読んでもらえると嬉しい。コロナで発売が延期したこともあって始まってからペーパーバックの発売までかなりの期間待つことになったけど、前評判を裏切らないすごい作品だったから我慢の甲斐があった。

ライターは前述のJonathan Hickman、アーティストはPepe LarrazとR. B. Silvaが担当している。前のNew MutantsでHickmanが意外にもコメディがめちゃくちゃうまいっていうのを書いたけど、本作は打って変わってゴリゴリのSFだ。本作でもX-MEN一年目、十年目、百年目、千年目と時代をまたいだ物語が展開され、種族の存亡をかけた闘いが描かれる。Hickmanの物語の何よりの特徴は、とにかく綿密に練られた設定。本作でも話の合間に文章だけの解説ページが挟まれ、まず物語を読み、その後のページの解説を読んでやっと内容が理解できるというのが読み方の基本だ。なのでかなりどっしりした読後感は感じられるけど、物語の複雑さも併せて結構人を選ぶ構成にはなっていると思う。

アートで気に入ったのはHouse of Xのパートを担当していたPepe Larraz。このブログで最初に紹介したAvengers: No Surrenderも担当していたんだけど、なんだかめちゃくちゃ刺さる絵柄だった。とにかく曲線がきれいで、ごちゃごちゃしすぎないほどの程よい細かさも魅力だな。滑らかですごく見やすいのにキャラクターの表情はしっかりしてるからすごく好きだった。

本作の面白いところは、これまでのX-MENとは全く違った新しい物語を作ろうとしていること。というのも、X-MENは九十年代の熱狂的なファンが多いせいでかなり過去作を意識した展開をしがちだったし、自分がX-MENにとっつきにくい理由もそこだった。そんな中、Hickmanは全く新しい方向の物語を書いていて、その始まりがHouse of X/Powers of Xだというわけだ。新規読者でも入りやすく、今後数年間続くであろう新しい時代の始まりとしても十分に読む価値のある作品だろう。

肝心の内容だけど、本作はまさに新時代のX-MENにふさわしい重厚でとにかく楽しい物語だ。ミュータントの独立国家や千年後の世界まで広がる人類とミュータントの戦争などとにかく派手な内容が目を引き、圧倒的に練りこまれた世界観で新たな時代のミュータントの社会が描かれていく。「こんなもの見せられたらいやでもテンション上がるな!」っていうものが次から次へと出し惜しみなく出てくるからめちゃくちゃ興奮するし、とにかく楽しいっていう言葉が似あうコミックだ。大手出版社のコミックというのはずっと物語が続くという都合上なかなか思い切った展開はできないものだけど、逆に本作でこれだけのことをやっているということはMarvel側にそれなりの自信があるということだろう。こういう姿勢もDawn of Xの勢いを感じさせる一因かもしれない。

加えて、Hickmanのライティングも単に順を追って物語を描くだけではなく、かなり工夫されているのが面白さの要因の一つだろう。本作はX-MEN結成の一年目、十年目、百年目、千年目と時系列が交差しながら物語が進んでいき、さらにそこに時間軸とは別の横軸が加わって世界観が説明されていくのだけど、これが最初の方は何が起きているのか全く分からないまま読んでいくことになる。しかし物語の仕組みがだんだん明かされ、同時にそれまで隠されてきた秘密も開示されていくという構成が読者からすると半分謎解きみたいに感じる面白さにつながっているのだ。こういう複雑なライティング、生半可なことではただわかりにくい話になってしまいがちだけど、そこをしっかり面白さに昇華させてくるあたりがさすがHickmanだ。まさに複雑な設定と複雑なライティングを得意とする彼ゆえの技だろう。

ただあくまで本作は序章、今後続いていくであろうHickmanのX-Menのランの最初の一歩に過ぎない。だからこそ今後に向けての伏線がぎっちり詰まっているのもワクワク感の理由だろう。新たな人類の対ミュータント組織オーキスや、意思を持つ島クラコアとアポカリプスの歴史、ミュータントたちが直面する新たな敵など、今後につながる話題がちらちら出てくるたびに、これを使ってどんな展開をするのか考えてしまうのが我々読者の性だ。まだ実際にどうなるかはわからないけど、この絶妙なチラ見せも楽しさを煽る一因としてしっかり機能している。

現在は初のクロスオーバー、X of Swordsを迎えますます盛り上がっているHickmanのX-Menだが、まだ始まって一年だし話題に乗っかるならまだまだ間に合う時期だろう。今コミック業界でも一、二を争うホットなタイトル、まずは本作を手に取ってみてはいかがだろうか。

 

House of X/Powers of X

House of X/Powers of X

  • 発売日: 2019/12/11
  • メディア: ハードカバー