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アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Daredevil: The Man Without Fear

Daredevil: The Man Without Fear (Daredevil: The Man Without Fear (1993-1994)) (English Edition)

ニューヨークのヘルズ・キッチンに生まれた少年マット・マードックは弁護士を目指しながらボクサーである父ジャックとともに生活していたが、事故で失明したことをきっかけに彼の世界は一変する。マットと同じ超感覚を持つ謎の男スティックや心に闇を抱える恋人エレクトラと出会い、やがてマットは恐れ知らずの男デアデビルとしての道を歩みだす。

Zdarskyのコミックを読み始めてからがっつりデアデビルにハマってしまい、当分続きそうな外出自粛生活をしのぐためのお供という言い訳でFrank Millerが担当していた時期のコミックをまとめて衝動買いしてしまったので、今回はその中で最初に読んだThe Man Without Fearを紹介。つい最近ボックスにまとまったセットが出たおかげでそんなに苦労もせず全部定価で買えたから安く済んだ方だとは思うけど、それでも一気に三万近く吹っ飛んだのはめちゃくちゃ響きました。自宅軟禁で暇だとは思いますが、皆さんも節度をもって楽しいアメコミライフを。

Frank MillerといえばBatman: The Dark Knight ReturnsやSin Cityで知られる超一流ライター兼アーティストだけど、自分が作品に触れるのは初めて。前々から読んでみたいとは思いつつ有名どころであるがゆえに敷居が高い感じがしてたから、これは個人的にはすごくいい機会だった。Millerは最初アーティストとしてDaredevil誌のクリエイターに就任してのちにライターも任されるようになったという背景があるんだけど、本作ではライターだけの参加となっている。じゃあ本作の絵はというと、これまた大物のJohn Romita Jr.、通称JRJRが担当している。彼の作品は何度か読んだけど、実は個人的にはそれほど好きなアーティストじゃない。知らない人も画風を調べてもらえばわかると思うけど、彼の描くキャラクターは姿勢や動きがすごく独特で、正直人間っぽく感じないところがある。でも本作のころの絵はまだ割と人が自然に描かれてるし、表情なんかはさすが大物という感じですごくうまいから見ていてすごく楽しめた。

デアデビルの父親を犯罪者に殺されて街に潜む悪に復讐を誓うという設定はアメコミでは結構ありきたりで、彼のコミックを読むときは正直どうしても頭にバットマンがちらついてしまう。しかし、デアデビルバットマンと違うのは彼が恵まれた環境で生きてきた少年だったわけではなく、むしろいつ本人が犯罪に走ってもおかしくはない貧困家庭で育ってきたことだ。もし自分が社長一家の長男で無限に金がわいてくるなら、そりゃヒマラヤに修行に行くのも高性能な装備を集めるのも簡単だ。でもマット・マードックはそうじゃない。もともと大人に従うような性格ではなく、家庭では父親が食を繋ぐために犯罪に手を染め、学校では密かに受けたいじめへの憎悪をため込み、挙句の果てに視力まで失ってしまった。そんなヒーローとは程遠い境遇にいた少年がいかに成長していったかが本作の焦点だ。

力を手に入れ父の復讐に向かったときでも、マットは内に秘めた抑えられない暴力性で無関係の人の命を奪ってしまった。大学生になり初めて恋をした時も、彼は自身の情熱を抑えられなかったがゆえに後々深い傷を負った。大好きだった父親でさえ裏の世界に身を堕とし、そして自分も誤った道を行きかねないと気付くマットは、自身を含む世界に必要なのは己を抑え込むルールだと信じ法律家の道を歩む。このルールというテーマが本作の一番のポイントで、この後のデアデビルの物語でも大きな話題になることは言うまでもない。暴れたい衝動を抑えて忍者のように静かに闘い、自分が一線を越えないことを願いながら悪と闘う。マット・マードックというキャラクターが決して心に余裕がある恵まれた世界の人間ではないからこその苦悩が、彼がヒーローと呼ばれる所以なのだと思う。

マットが闘う相手も少年時代の生活から変わらない。姿を変えより複雑になっても、その本質は彼が経験したいじめだ。本来デアデビルとはいじめっ子たちがつけたマットのあだ名で、彼はそう呼ばれることを嫌ってきた。しかし物語の最後、マットは自らデアデビルと名乗る。以前はあざけられてきたその名前を今度はいじめっ子たちが恐れるようになるというのがデアデビルの闘いの始まり、なんとも粋な演出だ。

デアデビルのオリジンを改めて描いた作品だけあって、本作は他の知識抜きで純粋に楽しめる作品だ。マットの人生のいろんな出来事が描かれているからかいろんなところに話の重みが分散されて行ってしまっている感じはするが、一貫して描かれるマットの成長は読みごたえがある。本作でMillerのデアデビル像をオリジンから叩き込まれたから、この後読むのちのマットの活躍も楽しみだ。

 

 

 

デアデビル:マン・ウィズアウト・フィアー (MARVEL)

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