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New Mutants by Jonathan Hickman Vol. 1

New Mutants by Jonathan Hickman Vol. 1

人間社会から独立し、新たな国家クラコアを作り上げたミュータントたち。楽園のような島で新しい生活を歩み始めた彼らだったが、そのうちの一人サンスポットには一つだけ心残りなことがあった。それはニュー・ミュータンツの一員として闘っていた時のチームメイトかつ親友であり、現在は宇宙帝国シーアーにて家族を持ち生活しているキャノンボールがクラコアにいないことだった。彼はニュー・ミュータンツを誘ってスタージャマーズの宇宙船に搭乗し、シーアーへと向かう。

売れっ子ライターJonathan Hickmanを迎えて今までの世界観を一新し、現在Marvelの中でもバカ売れして一躍トップのタイトルに躍り出たX-Men。通称Dawn of Xと呼ばれるこのイベントではMaraudersやFallen Angels、X-Forceなど様々なスピンオフが刊行されているが、その中でもX-Men本誌を手掛けているHickmanが直々に担当していたのがこのNew Mutantsだ。一応Ed Brissonと交代で書いているが、二人の書く物語は完全に独立していて、月ごとで交互に二つの物語が進んでいくというなかなかややこしい出版形式となっている。本作はそんな中でもHickmanが担当している#1、2、5、7を収録している。

Dawn of Xは本来まずすべての始まりとなるHouse of XとPowers of Xという二つのタイトルを読み、そこからX-Menなどの様々なタイトルに派生するというのが正しい追い方だ。もう勘のいい方はこのブログが紹介していなかった時点でお気づきかもしれないが、当の自分は何とこのHouse of X/Powers of Xをまだ読んでいない。というのも、現在HoX/PoXはやたらと高いハードカバー版の本しか出版されていないのだが、今年の九月にやっと普通のペーパーバック版が出るのである。内容同じなら少し待って安いものをと思ったものの、イベント開始から一年待つというのは予想以上につらく、しかもその間にイベントはどんどん盛り上がっていき、さらなるスピンオフ作品の発表やらすでにX-Menを追っている人たちの高ぶりなんかを見ているともうどうしようもなくなってくるが、でも一度待ち始めちゃったものは今諦めたら今までの信望が無駄になるし、とひたすらやせ我慢して今に至るわけだ。正直、今自分が生きているのはほかでもなくHoX/PoXを読むためだと言い切れるくらい楽しみだから、手に入り次第速攻読んで速攻記事を書きたい。というかSilver Surfer: Blackの時にも書いたけど、絶対売れるのがわかってる本だけ先に無駄に高い豪華版を出して通常版はめちゃくちゃ待たせる売り方本当にやめてほしい。Blackの時は豪華さにつられて大金はたいたけど、たかがハードカバーじゃさすがに余計に金は払えないし今回ばかりはMarvel営業部を心の底から恨んでやりたい。

少し話が愚痴っぽくなってしまったが、HoX/PoXを読んでいないとなるとじゃあなんでNew Mutantsは読んだんだと疑問に思う方もいるかもしれない。理由は簡単で、単純に我慢できなかったから。といっても本作は現在ミュータントたちがクラコアで暮らしているということさえ知っていれば簡単に入れる話だったから、結果的には何の問題もなく楽しめた。

アートはRob Reisという人が担当。全く見たことがないアーティストだったけど、すごく魅力的な絵だった。本作のアートの何よりの魅力は、全力でBill Sienkiewiczをリスペクトしていく姿勢だ。Sienkiewiczといえばまるで抽象画のようなハチャメチャな絵とすごくリアルな写実的絵画のような絵を使い分ける超大物アーティストで、個人的には今読んでいるElektra: Assassinを担当していたアーティストだから結構なじみ深い。そんな彼の代表作といえば、まだChris Claremontがライターだったころの八十年代のNew Mutantsである。本作ではそんな彼のスタイルを可能な限り再現しようというReisの意思がガンガン伝わってくるのだ。もともと細い線による細かい描き分けが特徴の彼の絵はどこかSienkiewiczを彷彿とさせるのだが、キャラクターが怒った時に顔が崩れて激しい怒りが伝わる抽象画スタイルに一気に切り替わったり、効果音のフォントがSienkiewicz特有の独特でおしゃれな感じだったりと、単に画風が似ているだけでなく様々なテクニックでSienkiewiczの絵の雰囲気を再現しようとしているのがわかる。

でもってReisの絵はすごくわかりやすいということも紹介しておきたい。オリジナルのSienkiewiczの絵は独特で確かに魅力的だが、そのあまりの奇抜さゆえにコミックの誌面で見るとコマ割りなんかがめちゃくちゃ読みにくくて、慣れるまではとにかく見にくいというのも事実だ。かくいう自分も彼の描くカバーは純粋にアート作品として楽しめるから大好きだけど、アートの美しさと同時にライターの考えた物語を伝えるための媒体である必要があるコミックの中身の絵を描いているとなるとちょっと身構えてしまったりもする。コミックというのは単に惹かれる絵を描くというだけでなく、物語の中の文章で表現されない部分をわかりやすく伝えなければならない、複雑な読み物なのだ。その点では、Reisは各所の表現は確かにSienkiewiczを意識しているものの、コマ割りや普段の表現自体はいたって普通で、どういう順番で読むのかさっぱりなコマ割りやらわかりやすさより芸術性を重視した結果のものすごい異質な体のバランスをしたキャラクターは出てこない。自分にとってはまさに完璧なバランスで絵を仕上げているのだ。ほかでは見られないおしゃれな表現を楽しみながら、全体としては普段のコミックの気分で読める素晴らしいアートなので、この絵のためだけでも全然買う価値はある作品だと思う。

担当ライターがHickmanということもあって読む前はハードなSFを期待していたんだけど、読んでみていい意味で完全に予想を裏切られた。本作はなんと超コメディ寄りのドタバタ冒険物語なのだ。自分が唯一読んだことがあるHickman作品がSecret Warsだったから設定なんかがやたら凝っていてかなりの読み込みがいる重い作風を勝手に想像していたからこのライトな作風は逆に新鮮ですごく楽しかったし、本作に出てくるキャラクターの中で見たことがあるのがたった一人、しかもそれもAvengers: No Surrenderにちらっと出てきていただけのサンスポットというミーハーな自分でもすらすら読めて、読後にはニュー・ミュータンツのメンバーにしっかり愛着がわいているくらいには面白い作品だった。

とにかくコミカルなタッチが純粋におかしくて、笑いながらすらすらページをめくっていけるのが本作の物語の魅力。前述のとおりややこしい出版形式のせいで#1、2、5、7と変則的に物語が続いていることを逆手にとって、毎号最初にサンスポットが読者に向けて今までのあらすじを話していたら#5と#7の間にすでに作中ではだいぶ時間が経過してしまっていて、どこまでがあらすじでどこからが本筋かわからなくなって物語をネタバレしかけているのをダニに突っ込まれたり、シーアー軍とニュー・ミュータンツがぶつかり合う闘いが始まったと思ったら、次のページにはなぜかテーブルゲームのルールが書いてあり、サイコロを振ってそれぞれのメンバー同士の勝敗を決めた後、勝ったプレイヤーがデスバード!と叫んでゲーム終了なんていうめちゃくちゃな展開が始まったりする。この第四の壁を粉砕するデッドプール顔負けの勢いのギャグもさることながら、読者に向けてのあらすじ解説中自分の顔が映るたびに自身にイケメンさを語りだしちゃうサンスポット、クラコアのミュータントが作る新種のコーヒーの味にメロメロで頭からハートが出ちゃうマジック、テレパスの力で敵に"Punch yourself!"と命令しまくって倒した後こっちに向かってピースサインを決めちゃうカルマだったり、とにかくメンバーみんなのキャラクターがかわいらしくて立っている感じが最高だ。物語が面白いのはもちろん、自分がチームのことをしっかり好きになっているのが本作の面白さの何よりの証明だと思う。

コミック紹介の本題はこんな感じなんだけど、最後に本作に関してどうしても付け加えて書いておきたいことがある。何と本作、あのマーベル・ユニバースを代表する宇宙弁護士、マード・ブラードック先生が登場しているのだ!

ほとんどの人は何を言っているのかさっぱりだと思うが、マード・ブラードックとは当ブログでも以前紹介したRocket: The Blue River Scoreに登場したキャラクターで、名前の響きと弁護士という設定からわかる通り、完全にデアデビルことマット・マードックのパロディである。目を持たないトカゲ種族に生まれたマードは幼少期に経験したしこがきっかけで突然変異で視覚を得た凄腕弁護士という設定で、Rocket誌ではロケット・ラクーンの弁護のための裁判中に突然現れたエレ〇トラ似のトカゲくのいちの姿を見るや否や、忍者と闘うために仕事すっぽかして裁判所を飛び出してしまうといった活躍?を見せている。そんなただのしょうもない一発ネタだった彼が、まさか今や天下のDawn of Xで姿を現すとは!本作でもサンスポットに大金積まれてニュー・ミュータンツの弁護を担当するも開始2ページで有罪判決を言い渡される相変わらずのご活躍っぷりで、ブラードック先生の大ファンである自分も大満足でした。冗談はこの辺にしておいて、まさかなところからまさかなネタを引っ張ってきて披露してくれるのはさすがHickmanといったところ。多くの人がスルーしてしまうような場面で過去作のネタを出してくれるサービス精神には本当に脱帽だ。

いつもは大体二千字程度で記事を終わらせるのに勢い余って四千字以上も書いてしまったが、逆にそれくらい面白い作品だったということ。純粋にファニーでキュートな作品なので、面白いコミックが読みたい人にはもう誰でもおすすめだ。願わくばマード・ブラードックがもっといろんな作品に出て有名になりますように。

 

New Mutants by Jonathan Hickman Vol. 1

New Mutants by Jonathan Hickman Vol. 1

  • 発売日: 2020/03/31
  • メディア: ペーパーバック