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X-23: Target X

X-23: Target X (English Edition)

研究所から逃げ出し、ついに自由を手に入れたX-23ことローラ・キニー。母親の姉妹であるデビーの家に向かった彼女は従妹であるミーガンとつかの間の幸せな日常を送るが、すでに追手は迫ってきていた。

Innocence Lostを手掛けたCraig KyleとChristopher YostによるX-23シリーズの続編が本作Target X。前作の直後からつながる物語となっているからある程度の知識は必要だけど、前作が好きな人は絶対楽しめるような作品だと思う。

相変わらずこのライター二人のコンビは読みやすくて、英語力が高校生レベルで普段は一気に三話ずつくらい読むのが限界な自分でも気づいたら丸々読み終わっていたくらいだ。あと本作ですごく感じたのは、この二人は頭が柔らかいというか、設定を結構いじくりまわしても全然違和感がない。本作の敵キムラは研究所でずっとX-23を見張っていたという設定ながら前作には全く登場しない完全な後付け設定のキャラクターなんだけど、うまい具合に時系列を調整してあたかも元からいましたみたいな説得力を作っている。あとは前作でX-23が大統領候補を殺した事件の後にキャプテン・アメリカが駆けつけていたなんて設定もスムーズにくっつけたりと、話運びのためにガシガシ設定いじるのがすごくうまいうえ、読者になじみ深い前作の事件と絡めて物語を運ぶからすんなり話が入ってきてかつ面白い。この技術は大物ライターでもなかなかできる人は少ないんじゃないだろうか。

アーティストは前作から変わり、Mike Choiが担当。あんまり思い入れがない人だけど、邦訳コミックも出ていたAstonishing Thorなんかを描いているらしい。個人的には、アメコミの原書を読み始めた時期によくお店に並んでいるのを見たSuperior Iron Manのカバーを描いていた印象が強い。改めて実際に誌面で見ると線がすごく繊細で、アクションシーンもすごくきれいに描くアーティストだ。前作のBilly Tanとはまた少し毛色が違うけど、Choiの絵もかなりX-23のアクロバティックな戦闘にあっていると思う。

Innocence Lostでキャラクターの紹介は終えたということで、X-23の周りに絞って話が出来ていた前作とは打って変わって、本作ではよりいろいろなキャラクターが登場し、ローラというキャラクターに関してもより多彩な側面がのぞける物語になっていると思う。かなり悲壮感漂うキャラクターだったローラがミーガンと仲良く話して結構コメディ寄りのシーンも増えているのを見るとなんだか安心してくるところはあるな。

前作のテーマがローラ・キニーがどうやって生まれたかなら、本作のテーマはローラがどうやって生きていくかになると思う。ミーガンやデビーと出会ってローラは普通の人間としての生活を楽しみ始めるが、これで悲劇が終わったかと思えばそんなことはない。相変わらず彼女は追われていてそのせいで愛する二人を危険にさらしてしまう時もあれば、暴走スイッチが入ってしまった彼女自身が二人に襲い掛かるシーンもある。母親のローラに人として生きてほしいという願いには近づきつつも、時たま彼女の兵器として造られた部分が顔を表す。前作でサラが悩んだローラは人か兵器かという問題に、今度はローラ本人が挑まなければならなくなってしまうのだ。

そんな彼女の悩みは本人だけで完結することはなく、マーベル・ユニバースの様々な住人を巻き込んでいくことになる。彼女が過去に罪のない人々を虐殺するのを目の当たりにしたキャプテン・アメリカはローラを兵器として管理しようとし、弱者を守る弁護士という立場にいるデアデビルは話を聞いたうえで彼女を身寄りのない少女として保護しようとする。そして何より重要な人物がローラの遺伝上の父親にあたるウルヴァリンの存在だ。物語終盤ついに対面を果たしたローラとウルヴァリンの会話はまさにX-23というキャラクターの根幹にかかわる部分だし、どこか映画ローガンを思い出させる雰囲気もあった。どんな存在に生まれても、その運命はローラには選択権すら与えられなかったものだ。彼女がどんな存在なのかは今後の彼女自身の選択が決めていく。前作の大きなテーマである人生の選択というのがまたここで提示され、物語は幕を閉じる。未来を感じさせながらも話はうまくまとまっていて、ローラ・キニーというキャラクターの物語の始まりとしてもKyleとYostの紡ぐ彼女の物語の終わりとしてもすっきりした気持ちで読み終えることが出来るいい終わり方だと思う。

ここでひとまずシリーズは終了し、KyleとYostのコンビはのちにNew X-MenやX-Forceなどのチーム誌でもう一度ローラを描くことになり、彼女の単独タイトルはMarjorie Liuが担当することになる。Innocence Lostと本作でX-23のオリジンはうまくまとまっているから、まとめて読んでみるのもお勧めだ。

 

X-23: Target X (English Edition)

X-23: Target X (English Edition)