アメコミもぐもぐ

アメコミ好きの大学生が感想を書くブログです。

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 2: No Devils, Only God

Daredevil by Chip Zdarsky Vol. 2: No Devils, Only God (Daredevil (2019-)) (English Edition)

自らが人を殺してしまった後悔からデアデビルとして闘うことをやめ、保護観察官として社会に尽くすことにしたマット・マードック。しかし犯罪が横行する社会で、人々は確かにデアデビルを求めていた。そんな中、マットはひょんなきっかけからマフィアの一家と食事を共にすることになる。

前回に引き続きZdarskyによるDaredevilの第二弾。Zdarskyに関してはKnow Fearの紹介で書いたと思うけど、本作ではChechettoに代わってLalit Kumar Sharmaがほとんどの、#10のみJorge Fornesがアートを担当している。Sharmaの絵は圧があるというか、言わずと知れた大御所アーティストのJohn Romita Jr.の雰囲気を結構感じる。自分はどちらかといえば前巻のChechettoみたいな繊細な絵が好きなので、粗削りのSharmaの絵は正直あんまり好きにはなれなかった。でもFornesの絵はすごくよくてで、べた塗を多用した影の濃い風景や細かいしわを描いてうまく表情を再現した人間の顔が好きだったな。Immortal Iron FistやHawkeyeを描いてたDavid Ajaの絵によく似てる。

以前の紹介でデアデビルは法、神の教え、そしてヒーロー活動に挟まれて苦悩するキャラクターだと思うと書いたけど、とりわけ前巻ではその中でも法律の影響に大きく焦点が当てられていた。本作は前作と地続きでありながら、今度はカトリックの教えにより焦点を当ててデアデビルの存在意義を明らかにしていく物語だ。

デアデビルをやめたマットは法律の限界の中で自身が出来ることを探ろうとするが、そもそも社会のシステムが歪んでしまったとき、そのシステムの一部である法に頼るだけではより良い世界は作れない。それがデアデビルやその他大勢のヒーローと呼ばれるキャラクターが暴力という本来法で抑制されるべき手段で闘う理由だ。世の中にはシステムの矛盾で苦しめられている人々がいて、彼らは確かにデアデビルを必要としている。

しかし、マットが信じる神の教えにおいても暴力はやはり憎むべきものだ。今までだったらそこには目をつむってきたが、事故とはいえ人の命を奪ってしまい、また同じような事故で人を殺してしまうかもしれないという状況になったマットはもうデアデビルとして闘うことはできない。なぜなら命だけは奪わないことがマットの言い訳であり、必要以上の暴力ではないという限界だからだ。

街はヒーローを必要とし、デアデビルになることでしか救えない人々がいる。その一方、神は人を殺めてしまうかもしれない暴力に頼ることを禁じる。この矛盾した倫理観は次第に神の教えに従うか、それとも神が何かの目的とともに創った自分という人間の信念に従うかという問いに昇格し、最終的にマットは自身の信念を信じて自警団として再度闘うことになる。前巻でカトリックの倫理観がデアデビルでいることの反論なのかという問題を扱ったがゆえに、本作でのマットの行動はそれに対する一つの回答になっていたと思う。

前巻の紹介ではほとんど触れなかったが、本シリーズにおいてマットと並ぶもう一人の主人公といったポジションにいるキャラクターがノース・コール刑事だ。彼は法律の正当性を信じており、悪人はもちろん匿名で自身の正義を振りかざすスーパーヒーローも犯罪者だと考えている男だ。前巻でデアデビルを追っかけまわしていたのもノースだが、本作では彼も法律の有用性について苦悩することになる。法律に違反したものを片っ端から追いかける彼の動きは汚職警官からはもちろんよくは思われず、彼と仲間は命を狙われ最終的には彼の相棒だった刑事が殺されてしまう。先ほどにも書いたけど、マフィアと手を組んだ汚職警官の存在のように社会のシステム自体が歪んでいるとき法律だけに頼って社会を変えることは難しいのだ。それを思い知ったノースは協力に来たマットを見て、自警団に対する考えが少し変わる。法のみに頼る刑事と自身の正義を信じるヒーロー、二人の違う信念を持つキャラクターの今後の関係もまた楽しみだ。

最後に本シリーズのマット・マードックというキャラクターの魅力にも触れたい。マット・マードックという男は数多くいるマーベル・ユニバースのヒーローたちの中でも群を抜いて普通なキャラクターだ。超感覚レーダーセンスというスーパーパワーっぽいものはあるものの闘いでは自分のこぶしと棒しか使えないし、精神面でも自分の信念を貫く一方それゆえに悩むことも多くて、決してメンタルが強い方だとは言えないだろう。本作ではさらにデアデビルでなくなったこともあり、彼の普通さがより顕著に描かれている。

本作でも一番好きなシーンが、マットが立ち寄った近所の古本屋の店員ミンディと話すシーンだ。ミンディに一目ぼれしたマットはご自慢のレーダーセンスで彼女の体温や心音で自分を見て興奮しているかどうか探ったり、意味もなく彼女の店に出入りしたりと、少し前までスーパーヒーローだったとは思えないほど微妙に気持ち悪い言動を繰り返し、挙句の果てには彼女が既婚者であると知りながらも彼女の夫がマフィアであることを言い訳にしながら寝てしまうのだ。物語の中では彼が神の教えに背いてデアデビルとして復活したタイミングでカトリックで禁忌とされる不倫に走るという演出でもあるんだけど、自分はこのマットのどうにも気持ち悪い感じがすごく好きだ。マーベル・ユニバースの一方でアイアンマンやキャプテン・アメリカが人類を救うために街を駆け巡る一方で、少し離れたところでは別のヒーローが友達ができないことや既婚者を好きになったことに悩み暮れている。そういうところが自分はアメコミの世界観ですごく好きだし、一番キャラクターの人間臭さが描かれるところだと思う。本作のおかげで自分はデアデビルというキャラクターをすごく好きになれた。

書きたいことが多すぎて、とりあえずいろんなことに触れた結果すごく雑な文章になっちゃったけど、とにかくDaredevil誌めちゃくちゃ面白いです。これまで全く彼に触れてこなかった自分がドはまりしてドラマ版も追っかけ始めたくらいだからだれが読んでも楽しめるはず、ぜひいろんな人に読んでもらいたい。