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Wonder Woman: The True Amazon

Wonder Woman: The True Amazon (English Edition)

強欲な男たちとの戦争を経て楽園の孤島セミッシラにたどり着いた不老の女たちのみの一族アマゾン。その女王ヒッポリタの子供が欲しいという願いが奇跡によって成就し、土塊に命が宿り王女ダイアナが生まれた。彼女は優雅な外見と驚異的な力に恵まれたが、島中で甘やかされた結果利己的な欲にまみれて育ってしまう。しかし彼女はある悲劇をきっかけにヒーローとしての道を歩み始める。

こんなご時世でなかなか外に出れなくなりしばらくは新刊のコミックも出版されないということなので、浮いた出費を使ってこの機会に普段読まないような作品を買おうと思って手を伸ばしたのが本作。別にDCを全く読まないわけではないけど、クロスオーバーで何かと同社のいろんなタイトル読まされたりするアメコミは金欠の学生には一社追いかけるだけで精いっぱいなのが現状だ。

ライター兼アーティストとしてJill Thompsonが作品を担当。全然知らない作家さんだったけど、それもそのはず本作が初のヒーローものコミックだったようだ。そのおかげか、ほかではなかなか味わえない雰囲気のアートやまるでおとぎ話のようなトーンの物語が本作を他作品と大きく分けている。

本作の一番の特徴であることは間違いないアートは確かに美しい。おそらく水彩画で描かれたものだと思うけど、おかげで普段のデジタル採食のアメコミではあまり見ないグラデーションがかかった美しい色を楽しめる。花々に囲まれたセミッシラやアマゾンたちが身にまとう鮮やかな衣装などが映えるのはもちろんだけど、自分が引き込まれたのは人々が闘いの中で傷を負い命を落としていく場面の残酷さ。それまでの色鮮やかな楽園の絵からは想像できないほど人々の傷が生々しく描かれていて、それまでの情景と対比して現状の悲惨さがひしひしと伝わってくる。まさに本作でしか味わえないコミック体験だった。

アートは文句なしな半面、物語については正直そこまで魅力を覚えなかった。プロットはしっかりしているから、キャラクターの言動が謎とか話のテンポが遅い早いみたいな不満はない。ただ、島で唯一の子供として甘やかされて育ったダイアナが自身の傲慢さから生まれた失敗から学び、人のために生きようとするという物語はちょっとありきたりすぎるし、もうちょっとひねりがないと面白くならないと思う。あとは前述のとおり今までのワンダーウーマンのオリジンとは全く違う物語だけど、結果彼女の新しい面を開いたというわけでもなく、ワンダーウーマンを使ってやる必要がある話だったのかというのも引っかかった。物語は彼女が島を出るところで終わるからヒーローとして成長するダイアナの姿は描かれないし、スティーブ・トレバーが登場することもなければ男と女の戦争もあくまでアマゾンがセミッシラに住み着いた背景としか使われないから、ワンダーウーマンが強く持つフェミニズムのメッセージ性も本作には特にない。おとぎ話みたいな雰囲気の新しいワンダーウーマンの物語とはいえるけど、正直本当にキャラクターと全然関係ないおとぎ話として完結してしまっている。もちろんワンダーウーマンは常にフェミニストとしての面を見せてなきゃいけないというわけではないけど、女しかいない世界や男との戦争みたいな背景があるオリジンの物語でこの要素を活かさないのはやっぱり物語からワンダーウーマン感が失われた要因だと思う。

いろいろ書いたけど、キャラクターの背景は気にせず単体の物語として読めば、ありきたりではあるけどかなり密で読みやすいプロットだし、アートに関してはまさに一見の価値ありな作品だ。短くまとまったファンタジーが好きな人は楽しめると思う。

 

Wonder Woman: The True Amazon (English Edition)

Wonder Woman: The True Amazon (English Edition)