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Batman: Haunted Knight

Batman: Haunted Knight (New Edition)

犯罪の根付く街ゴッサム・シティを守るヒーロー、バットマン。彼はハロウィンの夜、自らの内に秘めた闇と闘っていく。

Jeph LoebとTim Saleの黄金コンビが手掛けたバットマンの短編集がこのHaunted Knight。ハロウィンの夜という共通の背景でバットマンスケアクロウ、マッド・ハッター、そして謎の幽霊と闘う短編が三話収録されている。LoebとSaleはこの他に名作として名高いBatman: Long Halloweenなどを手掛けたほか、Marvelで様々なヒーローとそれぞれの色をモチーフにしたColorシリーズという本を書いている。といっても自分はこれのどれも読んだことはなくて、本作が初の彼らの作品になる。自分が買ったのは本作に加えてLong Halloween、Dark Victory、そしてCatwoman: When In Romeを収録しためちゃくちゃでかくて分厚いオムニバスなので、読み終わり次第ほかの担当作も紹介していくと思う。

先に断っておくと自分はバットマン超初心者だ。基本的にMarvel畑で育ってきたうえに、たまにDC作品を読むときもバットマンはほとんど読まない。というか、正確に言うと読んでもよくわからない。もちろんバットマンにも万人が楽しめるエンタメ寄りの作品もあるとは思うが、自分はどうしても難解な文学作品のような印象がぬぐえないし、事実読後に内容が理解できたのかわかってないのか、はたまた自分が読んで得た印象は果たして作者の意図にあってるのかどうか悩んでもやもやした気持ちと一緒に本を閉じることがほとんどだ。今回も例外ではなく、正直すっきりと本を閉じて余韻に浸ることは全くなかった。だからこれから書く感想ももしかしたらものすごくずれたことを言ってたりするかもしれないが、そこは個人の趣味ブログなので許してほしい。

まずは最初のFear編。スケアクロウの恐怖ガスを吸わされたバットマンはその場は敵を倒すも、だんだんと犯罪と闘うことが自分に必要なのか疑問に思い始め、バットマンとしての責任よりブルース・ウェインとしての幸せを求め始めた。それと同時期にブルースの前に謎の美女が現れ、彼女に惹かれたブルースはいよいよ内のバットマンを捨て始める。

本作で描かれるのはブルース・ウェインの最大の恐怖、すなわち自身がバットマンの意味を忘れてしまうことだ。誰もが個人として幸せになりたいと願うのはごく当たり前のこと。ブルースもその誘惑にそそのかされ、自身がバットマンだったのはほかに選択肢がなかったから、愛する人を見つけた今もうバットマンでい続ける必要はないと思い始めてしまう。しかしブルースがバットマンになったのは決して義務感からではない。別の幸せな道があった中で、彼はあえて犯罪と闘う道を歩んだのだ。そのことを思い出したバットマンは誘惑に打ち勝ち、自身の恐怖を乗り越えていく。

本筋の物語はブルースの心中に焦点が当たりがちだけど、本作の元凶であるスケアクロウの造形もすごく面白い。次の話に出てくるマッド・ハッターにも言えるけど、Loebの描く狂人は本当にわけのわからないことしか言わない。バットマンがなんと言おうが、返ってくるのは全く意味の分からない呪文のような言葉だけ。これがキャラクターの狂気という特性を際立たせていて好きだ。それとも詳しく説明されないだけで、この呪文にも作中でどこか意味が暗示されていたりするのだろうか。ちょっと自分にはわからなかった。

次はMadness編。自身を不思議の国のアリスの登場人物だと勘違いしている狂人、マッド・ハッターがゴッサム・シティの子供たちを誘拐し始めた。時を同じくしてバットマンの協力者であるゴードン本部長の養娘バーバラが家出し、ハッターにつかまってしまう。バットマンは彼を追いかける中で、かつて自身を救ってくれた忘れられない人物と再会する。

このMadnessが一番の曲者というか、一番もやもやしてかつ興味を引いた話だ。作中でバットマンは自身の親代わりといってもいい女性と再会し、母との、そして彼女との思い出だった不思議の国のアリスに思いを走らせて親の愛を思い出す。それでゴードンとバーバラの親子の関係があり話が進んでいくんだけれど、正直ここら辺の話はちょっとうまく理解できなかった。それより自分が引き込まれたのは、マッド・ハッターが物語に引き込まれた狂人という点だ。確かに自身を本物のマッド・ハッターと勘違いしている彼はまさに狂っている。でも本当に狂っているのは彼だけなのだろうか。作中ブルースが母との記憶を思い出す回想シーン、彼は両親と奇傑ゾロの映画を見に行こうと家を出る。その後は皆さんご存知だろう、映画を観た帰りに彼の両親は殺されてブルースは犯罪と闘う誓いを立てる。そんなバットマンがバーバラを助けるためハッターの城に侵入した際、チェシャ猫の格好をした子供は彼を見て"You're mad."とささやいた。さらに物語終盤、バットマンはハッターを姿鏡に投げ飛ばして闘いに終止符を打ち、最後に鏡に映った自身の姿を見上げる。そこに映った、ひび割れによって蝙蝠のシンボルがきれいに隠されたバットマンの姿、それはまさに奇傑ゾロそのものだ。バットマンの中に確かに根付いた物語の記憶、無垢な子供に狂人だと見透かされた理由、そして最後の彼の姿。これらのせいで自分は実はバットマンも物語にのまれた狂人だというメッセージが隠されているような気がしてならないのだ。だけど、物語はその後そんなことに言及することなく何もなかったように幕を閉じる。これが作者の込めた意図なのか、それとも自分の考えすぎなのか。どうにもすっきりしない。

最後はGhost編。パーティー会場に現れたペンギンを倒し市民を救ったバットマンはその夜奇妙な夢を見る。死んだ父トーマスが無数の鎖に縛られた姿で現れ、バットマンへの執着はいずれブルースを苦しめると忠告してきたのだ。時計の鐘の音で目を覚ましたブルースは、さらに三人の霊魂と出会い、己の運命を悟る。

本作の中でも一番ハロウィンらしい話がこのGhost編だといえるだろう。トーマスの幽霊を皮切りに、ポイズン・アイビー、ジョーカー、そして屍となった未来の自分自身と様々な霊魂がブルースの過去や未来を垣間見せて彼にバットマンへの執着がもたらす悲劇を伝える。バットマンでいる限り自分が孤独であり続けることを悟ったブルースは眠りから覚めたハロウィンの夜、いつものように街を奔走するのではなく家で子供たちにお菓子を配ることにするのだった。

本作は今までの話と比べてすごくわかりやすくメッセージが読み取りやすい作品だが、それでもやっぱりすんなり飲み込めない点がある。というのも、この前のFear編でブルースは自身の幸せを失ってでも犯罪と闘いバットマンになることを選択したことが描かれているわけだが、本作の主張は真逆だ。バットマンでいることはブルースを苦しめる、そこまでは一緒だけどあろうことかこの話では彼が闘いをやめることが正しい選択であるかのように描写されている。この真っ向から矛盾した二つの物語のせいで、Loebの考えるバットマン像というか、彼がバットマンという存在をあるべきものととらえているのか呪いだと思っているのかがわからなくなってしまった。自分としては自分を捨てて悪と戦う道を選んだFearの解釈はすごく好きだったんだけど、この話を読んだ後だとどちらがライターの意図して見せたかったバットマン像なのかが見えなくなってしまったので、またなんともすっきりしない読後感しか得られない羽目になってしまった。

紹介といいつつ感想もはっきりしないような意見文みたいになってしまったけど、自分が本作を読んで考え付いたことは残念ながらこの程度だった。さすがにこれじゃあやふやすぎるので、今後LoebとSaleの他作品も読んでみてまた考えが変わったりしたらまとめてみようかなと思う。もし内容が気になる人がいたら、ぜひ自身の手で本作を手に取って考察してみてほしい。

 

Batman: Haunted Knight (New Edition)

Batman: Haunted Knight (New Edition)

  • 作者:Loeb, Jeph
  • 発売日: 2035/01/01
  • メディア: ペーパーバック