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Old Man Quill Vol. 2: Go Your Own Way

Old Man Quill Vol. 2: Go Your Own Way

自身の母星を破壊したユニバーサル・チャーチ・オブ・トゥルースと彼らが神として崇めるギャラクタスを倒すため、マーベル・ユニバース最強の武器アルティメット・ヌリファイアーを地球で探すガーディアンズ・オブ・ギャラクシー。彼らは最後にヌリファイアーが目撃されたファンタスティック・フォーの本拠地バクスター・ビルディングへと向かうが、そこはすでに凶暴な地底人たちの住処になっていた。一方現在アメリカを支配しているドクター・ドゥームもスター・ロードたちの影響で政府に反逆するレジスタンスを危険視し、ピーターを殺すために動き始める。

結構前に紹介したOld Man Quillの第二巻であり最終巻。ライター、アーティストは前巻と変わらず、それぞれEthan SacksとRobert Gillが担当している。

いやー、これが本当に面白いシリーズだった。正直前巻を読んだ時点では確かに面白かったけれどそこまでとは思っていなかったというか、衝撃を受けるほどではないけど飽きずには読めるかなくらいの感覚だったんです。自分単純な性格だから読んだコミックの面白さと書いた記事の長さが比例しちゃうんだけど、改めて自分の書いたものを見てもめちゃくちゃ長く書きたいこと書いてるFriendly Neighborhood Spider-Manの記事とかに比べて前巻の記事ってやっぱりだいぶさっぱりしてるんだよね。だから読み終わった当時の読後感としてもそこまでだったと思うんだけど、本作で見事に化けました。ここまで考えて話考えてたとは、いやはやライターのセンスに脱帽だ。本作は始まりからいきなり今までの流れを覆すどんでん返しがあるんだけど、当ブログはがっつり内容に触れていくから毎度のことながらネタバレ注意です。

まず本作収録の一番最初の#7で、今までピーターと一緒に冒険していたガーディアンズ・オブ・ギャラクシーは実はすでに死んでいて、今まで読者が見ていたものはすべてピーター目線の幻覚だったことが明かされる。読み始めていきなりこんなことが起きるからかなり驚いたけど、今までの話を読み返してみると確かに周りの人物が不自然なくらいにピーター以外の仲間を認識してない。市民を助けてヒーローだと持ち上げられてたのも、ドクター・ドゥームが危険視していたのも、決してガーディアンズではなくあくまでピーター・クイル一人なんだよね。読んでいた時は全然気にならなかったけど、のちの展開のためにこういう演出も実はしっかり練られていたことに気づくと本作のライティングがいかに丁寧だったかに衝撃を受ける。そしてこの展開自体も話の転換点として面白いし、何より涙腺をめちゃくちゃ刺激してきていい。

前巻の紹介でも触れているけど、このシリーズってディストピアもののはずなのに結構初期から仲間同士が親密なんだよね。しばらく会っていなかったという事情は語られつつもガーディアンズも意外とさらっと引きこもってたピーターを受け入れてくれて、励ましてくれたりなんかもしつつみんなで冒険してた。でもこれが全部幻覚だったと知って過去のシーンを読み返すと今までとは意味が全く変わってくる。これまでのはガーディアンズの仲間が優しかったんじゃなくて、ピーターが優しかったガーディアンズを心の奥で欲してたんだということが初めて表面に出てくるわけだ。家族を失ったピーターにドラックスが乗り越えろと助言してくれたのも、だんだんと後悔を乗り越えるピーターの背中をガモーラが笑って見つめていたのも、悪態をつきながらもなんだかんだピーターの作戦に乗って闘うロケットの姿も、全部ピーターがそうあってほしいと思っていた姿に他ならないし、その幻覚が読者が知っている昔のガーディアンズの姿とぴったり一致するのもまた物悲しい。さらにここにきてピーターが背負っていた後悔というのは決してスパルタクスの崩壊だけではなかったこともわかってより物語に影を落とす。ピーターの幻想とそれが消えた時の孤独の描写による感情の波に加えて、ここから一気に物語が動き出す感じが読んでいてたまらなかった。本作の目玉といえばまさにこのシーンだろう。

そこからはピーターが後悔を乗り越えつつも話が本題のアルティメット・ヌリファイアー探しに移っていってアクションがメインの場面が続くけど、ここのアクションも面白かった。スター・ロードってもともとそんなに身体能力が高いわけでもないし、本作に関してはまともな武器もないからただの戦闘経験豊富なおじさんでしかないんだけど、そんなピーターだからこそ戦略で闘う感じがかっこいいし、本作でもその空気はしっかり活かしてアクション描写に組み込んでいると思う。あとこれはSacksの方針なのかもしれないけど、少しでも描いた小道具や設定は絶対無駄遣いしないで活かすのも面白いね。幻覚のロケットが見つけてちょっと騒いだハルクバスターは後々ピーターがしっかり乗り回してるし、ファンタスティック・フォーのお助けロボットH.E.R.B.I.E.が爆発して時空間を捻じ曲げるって言ってた機械は敵を倒す罠にしっかり利用する。一番面白かったのは未来でナイフを持っていくのを拒否したピーターが過去に行って敵に負けそうになった時、過去のH.E.R.B.I.E.に未来の自分にナイフを持っていくよう伝えさせて懐からなかったはずのナイフを出すシーン。これだけ読んでもなんだかわからないと思うけど、実際読んでいるとさらっと理解できるしタイムスリップの仕組みをしっかり利用したネタですごく面白いトリックだから、ぜひ実際本で読んでみてほしい。こんな風に行動一つとっても前の展開を無駄なく活かして丁寧に描くから、逆に小物が出てくると次はどんな使い方をするのか考える楽しみも出てくる。アクションだけ見てもかなり楽しめる作品だ。ラストのギャラクタスとの闘いはせっかく因縁のラスボスだからもうちょっと長くてもよかったんじゃないかとは思ったけど、前巻でやたらと思わせぶりに出てきたただの銃をあんなカッコよく使うとは思ってなかったからあっさりはしていたけどテンションはだいぶ上がったしラストにふさわしい気持ちよさだったと思う。

物語の最後の最後、ピーターが生き残っていたメンバーで再度ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを結成して終わるけど、その際のスピーチもまたガーディアンズの精神が表れたピーターらしいスピーチでしびれる。一人になりたくて引きこもっていたピーターも実際は誰かといたくて死んだ仲間の幻影を生んでいて、自身の内の思いと後悔を乗り越えて今度は本当に生きている仲間と一緒に前に進むんだというのが物語を追ってきた後だとものすごく心に響く。このひねくれつつも誰かといたいっていう気持ちがすごくガーディアンズっぽくて好きだな。

こんな感じでめでたく完結したOld Man Quill、話はメインのマーベル・ユニバースと全く関係なくていろんなキャラクターが意外な形で出てきたりするから軽い気持ちで手にとっても全然ついていける作品だと思う。ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーが気になる人には自信をもって勧められる良作だ。

 

Old Man Quill Vol. 2: Go Your Own Way

Old Man Quill Vol. 2: Go Your Own Way

  • 発売日: 2020/02/18
  • メディア: ペーパーバック