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Venom by Donny Cates Vol. 2: The Abyss

Venom by Donny Cates Vol. 2: The Abyss

強敵ヌルを退けるために犠牲となったヴェノム。そのうちの人間側であるエディ・ブロックが目を覚ました場所は、謎の人物メイカーが管理する研究所だった。突然消えたシンビオートの声、自らの過去の記憶と現実に生じるわずかな矛盾、そして孤独への病的な恐怖が彼を襲うが、実はすべてにはヴェノム誕生とともに隠された秘密がかかわっていた。

先日紹介したRexに続くDonny CatesのVenom誌のペーパーバック第二弾。度肝を抜く新キャラと新設定でトンデモ規模の物語を展開していた前巻と比べると確かに派手さでは劣るものの、今作は読み手をうまくミスリードさせつつその予想をメキメキにぶっ壊すCatesのライティングの見どころがこれでもかと詰まってます。個人的には前作より好き。

冒頭の二話は少し前にAmazing Spider-Manで展開された物語Venom Inc.で死んだエージェント・ヴェノムことフラッシュ・トンプソンの追悼回ともいえる内容。さらっとメイカーの関与やシンビオートに関する設定追加をしながらもフラッシュとエディの最後の交流を描いていてすごく面白かった。斬新な風はどんどん取り入れても過去の話にはきちんと敬意を払う、こういうところがCatesが売れっ子作家になった理由じゃないでしょうか。

シンビオートの意思が消えてしまいついに独りになってしまったエディは孤独の恐怖に震えながら放浪の旅に出る。ヴェノムはもともと二人で一人というのが特徴のキャラ。前巻の最後でもかなり強調されていた要素だったけど、その直後で逆にエディを一人にしてみる発想もしっかりもとのテーマとの繋がりがくみ取れて面白い。旅の中で、エディの記憶と現実の出来事にすこしズレがあることが分かっていくミステリー要素も絡まり、敵らしい敵もアクションもないのに全く読み手を飽きさせない。前々からあるホラー要素も健在で、突然現れる幻覚や不気味な実験室など各所の不気味さのおかげか話自体は結構地味なのに雰囲気はすごくスリリング。キャラ、ミステリー、ホラーの三重で怪しげな魅力を醸し出してくるのはさすがのライティング。

本作で一番好きなパートはエディが過去の交通事故について語るシーン。事故の回想は前巻にもちらっと出てはいたけど、金髪で白人の男の子が道路に飛び出して車にはねられそうになっているという絵を見るとどうしてもエディが被害者だったのかと思っちゃうけれど、実はエディは加害者の運転手の方だったというオチがなんとも上手すぎる。正直な話、ここを最初に読んだときは思わず声が出ちゃいました。しまいにはこの事件が昔から描かれていたエディと父親の不仲の原因であり、無実の人々を守るというヴェノムの理念の原点だったなんて言い始めちゃう始末ですよ。読者の想像を完全に先読みしたうえでどんでん返し、しかもそれを過去作に繋げていくなんて、この離れ業こそがDonny Catesっていう感じ、ほんとにヤバイ面白さ。

終盤にはもっと過去の物語の裏の話が明かされていき、最終的にシンビオートと決別したエディ。これからはヴェノムというよりエディ・ブロックという人間に焦点が当たりそうだけど、ここからシリーズはクロスオーバーであるAbsolute Carnageに突入。展開が全く予想できないだけにすごく楽しみだ。

 

Venom by Donny Cates Vol. 2: The Abyss

Venom by Donny Cates Vol. 2: The Abyss