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Silver Surfer: Parable

Silver Surfer: Parable 30th Anniversary Oversized Edition

地球に謎の巨大な宇宙船が近づき世界中がパニックに陥る中、その中から星を食らう宇宙魔人ギャラクタスが姿を現す。見たこともない異世界からの巨人に恐れおののく人々に目を付けた宗教団体の教祖コルトン・キャンデルはギャラクタスこそ人類を開放する神だと唱え、自らを彼の預言者と名乗り混乱に乗じて権力を手にしようとする。世界中がキャンデルの目論見通りに動く中、密かに影から事態の一部始終を見ていた男がついに姿を現す。彼の名はシルバーサーファー、かつてギャラクタスとともに星々を周ったヘラルドだった。

いわずと知れたMarvelの立役者であるStan Leeがフランス漫画界の宝であるMoebiusことJean Giraudと夕食の会で話したことから生まれたという本作は、過去の出来事、特にFantastic Four誌なんかを連想させる会話はちらっと出るものの、ギャラクタスとシルバーサーファー以外のキャラクターは本作オリジナルのキャラを除いては登場することもなく、あくまでこの一冊で完結する物語になっている。一応FFの話からはつながっているっぽいことを考えると地球の一大事にほかのヒーローが出動しないのはちょっと変だけど、一度地球に来たことが明言されているギャラクタスのことも誰も認知していないことからしてサーファー以外のヒーローがいなくなって人々の記憶からも忘れ去られた未来の話なのかなーと勝手に想像してみたりしている。

まず、そして何よりMoebiusの絵が素晴らしい。ゆったりとした線とシャープな線がとにかく美しく使い分けられている。単純なシルエットで身軽に宙を舞うサーファーやコルトンの家族であり人間の中で最後まで善良さを失わなかったエリナは優しく滑らかな線で、力におぼれたコルトンの表情はシャープな線で描くなどキャラクターの感情がしっかり伝わってくる。一番すごいのはギャラクタスで、そびえたつ彼の圧倒的な存在感と人間の理解を超越した何も読み取れない不気味な無表情さはまさに圧巻だ。

本作でサーファーが闘う相手は単純な悪人ではなく、善悪を超越した力と欲望の塊であるギャラクタスと、盲目的にリーダーを求め腐敗した人間の負の側面そのものだ。作中では力を持つことが一番大切なことなのか?という問いかけが何度も行われ、純粋な力そのものであるギャラクタスや、人類を扇動し権力を手にしていくコルトンが描かれていく。しかし救える命を見殺しにしたところをテレビ中継されてしまったギャラクタスは人々からの信頼を失い、コルトンも自らに絶望する。ストーリーはシンプルながらも何も考えずに周りに流される人の心の脆弱さや、我々が信じるべき宗教や神はどうあるべきなのかというかなり踏み込んだテーマを扱っているところにStanの紡ぐ物語の質の高さを感じさせられる。

リーフだと二冊分でページ数としてはかなり少ないが、ページをめくるごとに驚かされる美しいアートと深く濃密な物語のおかげでかなりじっくり楽しむことができる作品だ。Stan Leeが他界ししばらく経った今、改めて往年の名作家の真骨頂に触れるのもいいのではないだろうか。

 

Silver Surfer: Parable 30th Anniversary Oversized Edition

Silver Surfer: Parable 30th Anniversary Oversized Edition

 

 

 

シルバーサーファー:パラブル (MARVEL)

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